ハイプレスに苦戦し後手に回った日本 U-20W杯 ベネズエラ戦をデータで分析
頼もしかった原の献身的なディフェンス
自分たちのサッカーができない苦しい時間帯も、献身的なディフェンスで輝きを放った原 【写真:田村翔/アフロスポーツ】
この試合は、日本にとって決して良いサッカーだったとは言えない。90分間で9回という敵陣ペナルティーエリアでのプレー回数は、グループステージ3試合を含めて最低の数字だった。ベネズエラのフィジカルに苦しんだし、それをはがし切る技術も足りなかった。中2日でコンディションが整わない影響もあっただろう。しかし、年代に限らず、日本代表のサッカーを見ていると、自分たちのサッカーをできない苦しい試合や時間帯で、むしろ輝きを増す選手がいる。それはA代表でいえば、原口元気だったり、山口蛍だったり、今は戦列を離れているが内田篤人だったり――。
そんな個性を原には感じた。正直に言って、ビルドアップはあまり良くない。ウルグアイ戦では市丸瑞希にポジショニングをかぶらせ、パスコースを豊富に作れず、ビルドアップを詰まらせる様子が目についた。ボランチの経験に乏しいのだから、仕方がない。しかし、それにも徐々に慣れ、苦しい展開となったベネズエラ戦では原の献身的なディフェンスが最も頼もしく感じられた。日本が攻められながらも、ベネズエラのビッグチャンスが意外に少なかったのは、原の働きが大きい。
常に脅威だったセットプレー
この直後、ベネズエラは布陣を変えた。セカンドトップの10番ジェフェルソン・ソテルドを左サイドハーフへ移し、7番アダルベルト・ペニャランダを2トップへ移す4−4−2へ。よりシンプルに前線のターゲットへボールを入れ、中盤を省略する形にした。
高木の決定機から、攻撃のリズムをつかみたい日本だったが、ベネズエラに大ざっぱな展開からフィジカルを生かしてボールを収められ、どんどん疲弊していく。後半31分に市丸を下げ、板倉滉を投入してパワー攻めに対抗せざるを得なかったが、この中盤のサポートが遅れがちな試合展開では、後半18分に投入していた久保建英も孤立するだけ。相手は前線でフィジカルキープし、日本は前線でテクニシャンが孤立。交代が後手に回り、リズムに乗り切れなかった印象が強い。シンプルな肉厚サッカーに早めに舵を切ったのは、ベネズエラの英断だった。
ただし、ベネズエラも2トップに移ったペニャランダはボールを動かすのが遅く、収めた後のプレーが今ひとつ。10番ソテルドも、藤谷が1対1で完璧につぶし、裏を陥れる脅威も減った。後半は日本だけでなく、ベネズエラもあまり敵陣ペナルティーエリア内でプレーができていない。ベネズエラはシュート数こそ多いが、外からのミドルシュートがほとんどだった。
こうなるとベネズエラのチャンスは、セットプレーくらい。しかし、それが勝負を決めた。セットプレーは得てして、こう着した試合を決める。延長後半3分、コーナーキックから8番ヤンヘル・エレーラがヘディングで合わせ、堅く閉じ続けた日本のゴールネットをついに揺らした。前半19分、後半21分にも競り勝っていたエレーラだけに、ワンチャンスをモノにされた、とは言えない。セットプレーは常に脅威だった。
【データ提供:データスタジアム】
なぜ、もっと相手陣内でプレーできなかったのか。なぜ、シュートを決められなかったのか。なぜ、セットプレーを防ぎ切れなかったのか。なぜ、グループステージで最終ラインにミスが多かったのか。この大会からたくさんの「なぜ」を持ち帰り、今後につなげてほしい。このU−20日本代表、この世代がポテンシャルの塊であることは、試合を見た人全員が確信したはずだ。東京五輪が楽しみになった。
※本スタッツデータは大会公式とは異なる場合があります。
(グラフィックデザイン:相河俊介)