メッシがクラシコで見せた唯一無二の輝き 流れが一変、リーガ優勝争いの行方は!?

両GKが突出したセービングを見せる

スペクタクルな一戦となったが、テアシュテーゲンとナバス(写真)の両GKは突出したセービングを見せていた 【Getty Images】

 けが明けのギャレス・ベイルが万全の状態になく、前半39分にはスピードと機動力に優れたマルコ・アセンシオと交代した。多少は破壊力が落ちたとはいえ、ロス・ブランコス(レアル・マドリーの愛称)が擁する得点力は恐るべきものだ。

 だが、過去のクラシコでも度々見られた通り、今回もレアル・マドリーはボールとゲームのコントロールを失っていた。時折カウンターの応酬に持ち込むことでチャンスを作り出しはしたものの、そのような展開は彼らにとってもろ刃の剣であることも、この試合であらためて明らかになった。

 異なるプレースタイルを持ちながら、いずれも豊富なタレントをそろえた2チームに、あれほどコントロール不能の“壊れた”試合を繰り広げられては、戦術的な分析を行う余地はほとんどないことを認めざるを得ない。

 それでも絶好調の両サイドバック(マルセロとダニエル・カルバハル)を擁するレアル・マドリーがセルジ・ロベルト、ジョルディ・アルバとのサイドの攻防で劣勢に回ったのは、ボールとゲームのコントロールを失ったことが大きな要因だと考えることができる(とはいえ、決勝ゴールこそセルジ・ロベルトのドリブル突破を許したものの、この日、マルセロはハメス・ロドリゲスのゴールをアシストするなど、チャンスを作り出していた)。

 その意味で、バルセロナはネイマールの不在が大きく響いた。センターFWが本職のパコ・アルカセルは全く異なる選手であり、左ウイングでのプレーに適していないことは明らかだった。彼に代わって同ポジションを務めたアンドレ・ゴメスにも同じことが言えた。

 今回もレアル・マドリーとバルセロナは見る者の期待を裏切ることなく、驚くべき数のゴールチャンスを生み出すスペクタクルな一戦を提供してくれた。その大半はGKに困難を強いるものだったが、マルク=アンドレ・テアシュテーゲンとケイロル・ナバスはそのほとんどを突出したセービングによってコントロールしてみせた。そうでなければ、試合後にははるかに多くのゴールが記録されていたはずだ。

バルセロナが直接対決の成績で上回る

クラシコの勝敗を決したのは、たった1人の選手だった。リーガはどのような結末を迎えるのだろうか? 【Getty Images】

 そのような一戦で勝敗を決したのは、たった1人の選手だった。彼自身がその意思を示した時、またはそれにふさわしい試合状況が訪れた時、メッシは必ずといっていいほど決定的な役割を果たし、試合を動かしてみせた。ルイス・エンリケが戦術やゲームプランを何度誤ろうとも、質の高いバックアッパーがベンチにいなくとも、CL敗退の影響で選手たちが精神的に沈んでいようとも、彼は1つ指を鳴らすだけであらゆる障害を乗り越え、状況を一変させることができる。今回のクラシコにて、メッシはそのことをあらためて証明してみせたのである。

 メッシが特別な舞台に立ち、十分なモチベーションを抱いた際には、驚異のフィジカルと得点力を持つクリスティアーノ・ロナウドですら比較の対象とはなり得ない。そんな時、他の選手にできることはほとんどなく、メッシは今回のクラシコでもそうだったように、他の多くのクラック(名手)たちを遥かに上回る輝きを放つことになる。

 今回のクラシコにおいて、メッシはいずれも見事な形で2ゴールを決めただけでなく、チームメートのために多くのチャンスを提供し、数的優位の状況を作り出しながらボール動かし、暴力的なタックルを犯したセルヒオ・ラモスの一発退場を誘発した。退場について言えば、メッシに肘打ちを見舞ったマルセロもレッドカードを受けて然るべきだった。

 レアル・マドリーvs.バルセロナのような重要な一戦を見るたび、メッシが“わずか”5つのバロンドールしか受賞しておらず、バルセロナがより多くのCLを勝ち取っていないことを理解しがたく感じてしまう。その原因としては、監督選びや彼を取り巻く選手の補強に失敗したことくらいしか考えられない。

 残り4節となったリーガは、果たしてどのような結末を迎えるのだろうか。予想するのは難しいが、延期分のセルタvs.レアル・マドリー戦が重要な意味を持つことになったのは確かであり、あとは1節ごと、1ポイントごとの勝負となる。もう1つ触れておきたい重要な要素は、勝ち点が並んだ場合は1勝1分けと直接対決の成績で上回るバルセロナが王者となることだ。

 近年、何度も大きな流れの変化を生じさせてきたクラシコだが、今回リーガに生じた予期せぬ急展開は、1人の選手によってもたらされたものだった。その選手とは、傑出したプレーと驚異的な1人の選手によってもたらされたメンタルの強さを兼ね備え、あらゆる記録を打破してきたリオネル・メッシに他ならない。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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