羽生結弦にとって意義深い成功体験 自身初の「後半に4回転3本着氷」

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点数を稼ぎたいときに使える武器に

今季最終戦で、後半に4回転を3度成功させたことの意義は大きい 【坂本清】

 基礎点が1.1倍になることを考えれば、演技後半に3本の4回転を入れられるメリットは大きい。世界選手権のFSで6本の4回転に挑んだネイサン・チェン(米国)でさえ、後半は2本だった。しかし、当然プログラムの難易度は上がるため、失敗するリスクは高まる。羽生も来季どうするかについては「これから考える」と慎重な姿勢は崩していないが、同時にこうも語っていた。

「世界選手権が終わってから、この構成(4回転5本、そのうち3本は後半)で練習はしてきました。さすがに世界選手権のときのクオリティーで5本は難しかったですけど、時間がない中で、後半に4回転を3本入れることができたというのは、1点でも2点でも多く点数を稼ぎたいと自分の気持ちが乗っているときに、使える武器にはなると思っています」

 成功体験は、選手に自信を与える。初めて挑戦することは、人間誰しも不安を覚えてしまうものだが、1度達成してしまえば余裕が生まれる。そういう意味でも、五輪を翌年に控えた今季最終戦で成し遂げた意義は計り知れない。羽生も今後に向けて手応えをつかんでいるようだった。

「リカバリーを考えたときに、後半に4回転を3本跳べたことは、それができるんだという自信につながります。そして3回も跳んでいるのに、サルコウとトウループは前半に跳んだかのようなクオリティーで跳べていました(GOEでそれぞれ2.43点、2.71点の加点)。これからは余裕を持って、後半の4回転に挑めるようになったんじゃないかと思います」

あらためて浮き彫りになった強さ

「失敗したからと言って、気持ちを切り替えなくていい」という言葉にも、羽生の強さがにじみ出ている 【坂本清】

 4回転時代が加速した今季は、17歳のチェンが台頭し、宇野昌磨(中京大)も世界選手権で銀メダルを取る位置にまで上がってきた。高得点化も進む中、それでも中心にいたのは羽生だった。グランプリファイナルでは前人未到の4連覇。世界選手権でもFSで自身が持つ歴代最高得点を更新し、3年ぶりに王座を奪還した。

 その一方で課題も露呈し、SPについては今季1度も完璧と言える演技を見せることができなかった。羽生も「苦手意識が完全にでき始めているので、良いイメージがないし、時間をかけてしっかり打破していきたい」と、それを認めている。どのようなプログラムになるにせよ、来季はまず自身の中にあるネガティブなイメージを払拭(ふっしょく)したいところだ。

 来年2月には平昌五輪が行われる。連覇が懸かり、追われる立場となるが、そのプレッシャーに耐えうるだけのチャレンジを羽生は自分に課してきた。多くの失敗と成功を繰り返しながら、今も進化を続けている。今大会のSP後、羽生はこんなことを語っていた。

「失敗をすればするほど悔しいという気持ちが強くなって、その悔しいという気持ちが絶対に成長につながると僕は思っています。失敗したからと言って、気持ちを切り替えなくていいと思うし、悔しい気持ちがあるからこそ、また次にわくわくできると思っています」

 その言葉通り、FSでは演技後半に4回転3本を着氷させた。失敗や不安をも力に変える。羽生の強さがあらためて浮き彫りになる快挙だった。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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