地震から1年――熊本ヴォルターズの今 逆境から立ち上がり、B1昇格を目指す

河合麗子

チーム最多の4000人以上が集まった開幕戦

開幕戦にはチーム最多観客動員数となる4255人が集まった 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 被災地にあるプロチーム・熊本ヴォルターズの現状は、テレビなどで度々報道され、被災地に寄り添う選手たちの姿勢は全国でも知られることとなった。9月24日、これまでにない注目を集めた開幕戦。会場の熊本県立総合体育館に集まったファンはチーム最多観客動員数となる4255人。

 小林がファーストゴールを含む3ポイント5本の大活躍を見せるなど、会場は躍動する選手たちに熱狂した。試合は87対70で香川ファイブアローズに勝利。チーム初の開幕戦勝利を飾った。その後、前半戦は破竹の勢いで勝利の山を築き、西地区首位でシーズンを折り返した。

 そんな姿に一度離れたスポンサーも次第に戻り始め、現在では広告・サプライヤースポンサーが50社を超える。平均入場者数でも4月2日現在で1941人を記録し、B2のトップだ。今季の営業収入はリーグの分配金を合わせて約2億2000万円。昨季の約1億6500万円を大きく上回り、球団初の黒字経営となる見込みとなった。

 しかしこれは、“被災地”ということで注目を集めた一過性の現象という見方もある。西井GMは気を引き締める。

「この人気を定着させないといけない、一過性で終わらせてはいけない。来季はまた試されるシーズンになるでしょう」

 入場者数が増えたのには地道な活動も起因している。これまで以上に熊本県バスケットボール協会と連携し、開幕戦には協会登録者を無料で招待。その後の試合でも登録者に対して割引を行い、18歳以下の登録者は500円から試合を観戦できるようにした。熊本県内の登録者は子供だけでも約1万人。この割引を使って1試合200〜300人が訪れ、勝利することでさらにいい循環が生まれる。そして子供たちに同伴する保護者がチケットを買うことで売り上げが伸びていくのだ。

 チームはB2スタートとなった今シーズンも、トップリーグだったNBL時代と変わらぬ価格でチケットを販売している。

「チケット代を一度下げたら上げられなくなる。下げたら人が来るかというと、そういう問題でもない。料金分だけ楽しめるかなので、楽しめた人はどんな金額でも来てくれる」(西井GM)

 球団は、照明などの視覚的演出を投入し、昨季まで画像のスライドだった映像を動画に切り替えた。来季に向けての新たな演出についても業者との間で話し合いを進めている。試合以外でも入場者を楽しませたい、そしてチームに貢献してくれる選手たちのテンションを上げたい、球団も努力していることを選手たちに伝えたいのだという。

見せたいのは「逆境から立ち上がっていくメンタリティー」

プレーオフ進出に向けてはもう1敗もできない。厳しい戦いが続く 【素材提供:(C)B.LEAGUE】

 しかし、地震の影響はリーグ戦の戦いにも影響を落とす。チームは2月の交流戦あたりから1勝1敗の戦いが増え始めた。

 実は、まだ熊本県内には、まともに使用できる公立体育館が極端に少ない。地震の損壊で修繕が必要な会場が多く、選手たちは練習場を転々とする日々を送っているのだ。最も利用している菊池市総合体育館は熊本市内から車で1時間半の距離、どうしても練習量を多く積むことができず、その状況が試合結果に響き始めていた。

 そんなチームの転機となったのは、3月第1週と第2週に対戦した岩手ビッグブルズ・福島ファイヤーボンズとの東北2連節。いずれも東日本大震災からの復興を掲げて開催された試合だった。

「60試合全てでモチベーションを保つことが難しい中で、岩手、福島戦は僕らの使命感を燃えさせてくれるような試合だった。相手も東北に元気を与えるために負けられないとくるし、特に福島戦ではホームに熊本地震で被災した子どもたちを招いている中で、僕らも負けるわけにはいかなかった」(西井GM)

 試合は岩手との初戦を落とすも、その後3連勝。今季のチームテーマ「全ては熊本のために」という使命感を、岩手・福島のエナジーから再認識することができた。第26節を終えて、チームは西地区3位。前節の西地区首位・島根スサノオマジック戦をなんとか1勝1敗で踏ん張り、B1昇格を懸けたプレーオフ進出に望みをつなげた。

 チームはプレーオフ進出に向けてはもう1敗もできない状況、そんな中で今週末、熊本地震から1年という日に、香川ファイブアローズとのホーム戦を迎える。心配されるのは3月18日の広島ドラゴンフライズ戦で、足首を剥離骨折した小林の状態だ。

 前節までは治療に専念していたが、この節目の試合に向けて小林は「折れてもやりますよ」と語る。痛み止めの注射を打って試合に出場するというのだ。

「この選択が、スポーツ選手としての寿命を短くしたとか、間違った選択だとか言われると思うんです。でもそういう奇麗事ではなくて、自分の身を削ってでも伝えなければいけないことがある。この危機からどう立ち上がっていくか、そのエネルギーや姿勢はスポーツだろうが災害だろうが、僕は一緒だと思うんです。“逆境から立ち上がっていくメンタリティー”、これを伝えたい」

 選手生命を懸けた彼の強い決意を変えられるものは、誰もいないと感じる。

 これまでにない強い使命感をもって臨む4月15日、16日のホームでの香川ファイブアローズ戦。選手たちの姿は、被災地・熊本に大きな力を与えてくれることだろう。地元熊本の復興を信じて、私もこの試合を見守りたいと思う。

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー。これまでニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、スポーツ・教育・経済・観光などをテーマに九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う。2016年4月の熊本地震では益城町に住む両親が被災した。

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