2試合連続完封も不安の残るディフェンス 改善すべきリスタート対応と守備陣の固定

元川悦子

山口と酒井高が直面した攻撃面での難しさ

ボランチで出場した酒井高徳だったが、ミスパスが続いてしまった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 それでも、敵地で久保裕也と今野泰幸のゴールを守り切ってリベンジを果たしたことで、日本は貴重な勝ち点3を持ち帰ることができた。ホームのUAE戦で敗れて以来、神経質になっていた指揮官も、タイ戦の前日会見で「最終予選の初戦に負けたら、最終予選は突破できないと言われたこともある。個人的に私はプレッシャーが大好きだ。私にどんどんプレッシャーをかけてほしい」とジョークを交えてメディアを挑発するなど、本来の饒舌(じょうぜつ)さが戻ってきた。

 それだけハリルホジッチ監督にはタイ戦に勝利する自信があったのだろうが、試合は思わぬ方向に進んだ。日本はタイの攻撃力を警戒して山口と酒井高徳をダブルボランチで起用。トップ下に香川を置く正三角形の中盤で臨んだが、2枚のボランチは攻撃面での難しさに直面してしまったのだ。

 山口の方は、開始早々に酒井高との出し入れから原口にパスを出そうとするもいきなりミスし、タイにFKを与えてしまう。続く6分にもクリアが小さくなりCKを与えるなど、出足からつまずき本来の力を出しきれなかった。日本サッカー協会の田嶋幸三会長も「蛍はあまりよくなかった」と苦言を呈した通り、長谷部と今野の抜けたボランチの軸としては厳しい出来だった。酒井高にしても「高徳はハンブルガーSVではボランチでプレーしている。ただ、完全に守備的な役割だ。代表ではボールリカバリーと後ろからのビルドアップを担っている」と指揮官はより攻撃な役割を求めたが、やはりつなぎ役としての物足りなさは否めなかった。

 彼ら中心に中盤でミスパスが続くと、どうしても最終ラインにしわ寄せがいく。タイが激しいプレッシングを続けたことで、森重や吉田はビルドアップに余裕がなくなり、ボールを失うミスが目立った。最終ラインの連係も、UAE戦の時ほど高い集中力が感じられない。タイは90分間で4〜5回の決定機を作ったが、前半35分にティーラシン・デーンダー(10番)に反転シュートを打たれた最初のピンチは、長友の寄せが遅れ、森重の股を通されるという危険な場面だった。アウェーから戻った直後の2戦目で、疲労による反応の遅れがあったのだろうが、小さなほころびが命取りになることを忘れてはいけない。

吉田と森重を欠けば戦力ダウンは避けられない

センターバックは吉田(右)と森重で固定されており、彼らを欠くと戦力の大幅ダウンを強いられる 【写真:アフロ】

 前半アディショナルタイムの相手右CKの場面は本当にヒヤリとした。ティーラシンの強烈シュートを川島が左足1本でセーブ。こぼれ球に反応したアディサク・クライソーン(9番)が2度続けてフィニッシュに来たところを酒井宏樹が体でブロックして事なきを得たが、「チームとして守備の仕方がハッキリしないところがあった」と川島も反省を口にした。続く後半6分にも、同じ右CKから苦境に陥った。山口がアディソン・プロムラック(5番)にマークを外され、吉田が決死のカバーリングを見せるも、最終的にこぼれ球に反応したチャナティップ・ソンクラシン(18番)が強烈なシュートを放った。

 これは川島が防いで無得点に抑えたものの、この時間帯の日本はリスタート時の集中を完全に欠いていた。もともと最終予選に入って、リスタートからの失点を繰り返しているだけに、再徹底しなければこの先はさらに厳しくなるだろう。今後対戦するイラク、オーストラリア、サウジアラビアは、タイ以上にフィジカルが屈強で高さもある。W杯本大会に出場すれば、レベルはさらに上がることになる。それを忘れず、対策を講じてほしい。

 後半41分に長友がティーラシンを倒してPKを献上した場面は、クロスの対応がまずかった。今回の2連戦を通して見ても、相手にサイドを巧みに使われた際、久保と原口の両アタッカーが自陣深い位置まで下がってカバーに入らざるを得なくなり、どうしても間に合わずに、フリーでクロスを上げさせるケースが目についた。

 日本は昨季のレスターのように最終ラインだけでクロスを跳ね返し続けられるチームではないのだから、外からチャンスボールを入れさせない守り方をもっと真剣に模索すべきだ。本田圭佑も「守備のやり方に問題があるではないかと感じた」と話していた。そこはこれから選手たちとハリルホジッチ監督がすり合わせていくテーマだろう。

 タイ戦は日本のシュート数が12本に対し、タイは14本とチャンスの数では相手に上回られた。ボール支配率は辛うじて日本が55.5%と、44.5%のタイを上回ったが、4−0の勝利は幸運というしかない。ディフェンスリーダーの吉田が「内容は全然でした。無失点で終われたのは奇跡に近いと。ラインは割と高かったと思いますけれど、選手の距離感、ボールの失い方が悪かった」とズバリ言い切り、長友も「あれだけバタバタとミスをしてチャンスを作らせるというのはホームではありえないこと」と反省し切りだった。彼らの言うように、こんな戦いをしていたのでは、ロシア行きも難しくなる。選手たちはそれぞれ、この2試合の守備をフィードバックする必要があるだろう。

 加えて懸念されるのが、守備陣の固定化だ。GKは調子が上がらない西川周作に代わって川島が務めたが、最終ラインの4枚とボランチの山口は不動の存在となっている。彼らにとっては最終予選の経験値を高められるいい機会だが、何かアクシデントが起きた時には戦力の大幅ダウンを強いられることになる。実際、長谷部と今野を欠いたボランチが今回は人材難を露呈した。最終ラインにしても吉田と森重を欠けば、本当に苦しくなるはずだ。攻撃陣に関しては思い切った抜てきでバリエーションを広げているハリルホジッチ監督だが、守備にも同様に幅を持たせる試みが求められる。この2連戦で得た教訓を6月以降の終盤戦に生かすことが肝要だ。

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著者プロフィール

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。Jリーグ、日本代表、育成年代、海外まで幅広くフォロー。特に日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から5回連続で現地へ赴いた。著書に「U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日」(小学館刊)、「蹴音」(主婦の友社)、「黄金世代―99年ワールドユース準優勝と日本サッカーの10年」(スキージャーナル)、「『いじらない』育て方 親とコーチが語る遠藤保仁」(日本放送出版協会)、「僕らがサッカーボーイズだった頃』(カンゼン刊)、「全国制覇12回より大切な清商サッカー部の教え」(ぱる出版)、「日本初の韓国代表フィジカルコーチ 池田誠剛の生きざま 日本人として韓国代表で戦う理由 」(カンゼン)など。「勝利の街に響け凱歌―松本山雅という奇跡のクラブ 」を15年4月に汐文社から上梓した

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