スタジアム・アリーナで儲ける秘訣 ドイツの事例に見るスポーツビジネスの鍵
ファーストステップはビジネスの可視化とチケッティング
「アドラーマンハイム」のファンアプリ。ファンエンゲージメントの向上を図る 【写真:SAPJAPAN】
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「ITに関しては、はじめにERP(基幹業務システム)とeコマースの導入からスタートさせました。アリーナの開場時からERPは稼働しています。これによってイベントごとの売上と支出がリアルタイムに把握できるようになっているので、イベント単位で利益目標を設定してオペレーションしています。
チケット販売に関しては、独自に『SAP Event Ticketing』を採用して14年に稼働させました。今ではSAPアリーナで実施するイベントのチケット販売の大部分はSAPアリーナ自身で行なっています。モバイルでも簡単にチケットが購入でき、観客はQRコード付きのeチケットをiPhoneのWalletアプリに簡単に保存することもできます」
ファンアプリについては15年に稼働している。
「ファンとの絆を強めるためにモバイルは非常に重要だと考えています。15年よりファンアプリの提供を開始し、現在までに3万6000以上ダウンロードされています。『アドラーマンハイム』のファンは男女比が55:45、年齢は6歳から80歳と幅広いことが分かっています。アプリがメンバーカードの役割を担っており、アプリで表示されるバーコードを提示してファンショップなどでグッズを購入すると、ポイントに応じて選手と一緒に写真が取れるなどの貴重な経験を得ることができます。
そのほかにもディスカウントクーポンやチーム・選手・試合の各種情報をアプリを通じて提供し、ファンエンゲージメントの向上を図っています。一方でオペレーションを実施する立場から見ると、チケッティング、POS(Point of Sale、商品情報を収集、管理する)システム、ファンアプリがそろうと、ファンの一連の行動が分かるようになるのでファンの購買分析に非常に有効です」
リアルタイムダッシュボードの画面(売上レポート) 【写真:SAPJAPAN】
「Wi-Fiに関しては地元のネットワーク業者からサービスを受けています。イニシャルコストはほとんどかかっていないので非常にありがたいです」
Wi-Fi提供に関して、日本では初期投資の負担が問題視されることがある。ということは、Wi-Fiがサービスという形で提供されることはあまりスタンダードではないのだろう。スタジアム・アリーナ事業者から見ると、日本でも同形態のサービスが提供されるようになってほしい。
ビジネスサービスプロバイダーとしてのスタジアム・アリーナ
チケッティング、POS、ファンアプリを連携したファン購買分析 【写真:SAPJAPAN】
「SAPアリーナは本拠地とするスポーツチームにチケッティング、マーケティング、グッズ企画販売などのサービスを提供しています。スポーツチームにはチケッティングやマーケティングなどのスペシャリストがいない場合が多い。スポーツチームは強いチームを作り、試合に勝つことに集中してもらえれば良いと私は考えています。ビジネスについては、私たちが彼らのチームの一員となり成功に導くようにしたいのです」
プロスポーツチームがどこまで自分たちで実施するか、はいろいろな選択肢があるだろう。しかし、日本のスポーツチームもビジネスの専門家が不足しているという状況は共通している。一部の業務をマーケティング会社などに委託していることを考えると、スタジアム・アリーナがビジネスサービスのプロバイダーを担うということも選択肢としては考えられると思う。
ファンアプリも含めてITの導入・運用もSAPアリーナが行っている。各ソリューションの詳細は省略するが、SAPアリーナではSAPのソリューションをフル活用してイベント運営、スポーツチーム・イベント興行主へのビジネスサービスを行っている。その活用レベルは、一般の事業会社と同程度である。
これらのIT投資について、レーマン氏は次のように語った。
「チケッティングシステムへの投資は1年、そのほかのIT投資は約2年半で回収することができました。これもスポーツチームが単独で行うのではなく、設備を有しているSAPアリーナが統合的に行っていることで、効率化できているからだと考えられます」
スタジアム・アリーナをプロフィットセンターへ
SAPアリーナはIT企業であるSAPの創業者がオーナーであることや、本拠地とするスポーツチームが2チームあることなど、事例としていくつか特殊な要因がある。しかしながら、スタジアム・アリーナで稼ぐために何をすべきかというヒントがここにはある。日本ではスタジアム・アリーナをプロフィットセンター(利益を生み出す部門)にするための議論は始まったばかりだ。海外のプロスポーツクラブやスタジアムが実践しているビジネスモデルを学び、日本に取り入れていきたい。