キューバ戦勝利も喜べない理由 ブルペンに明確な役割分担を――

中島大輔

初めてのWBCで予想以上の重圧

3イニング目となった7回に集中打を浴びて3失点を喫した則本 【写真は共同】

 そもそも7回表の則本の続投も疑問符がつく。

 先発・石川歩の後を受けた則本が5、6回を完璧に抑え、7対1で7回表を迎えた。継投をするには万全のタイミングで、3人目の投手を送り込んでくると思われた。そうすれば則本をいい結果で降板させ、次の登板に備えさせることができる。加えて、余裕のある点差で他のリリーフ陣を送り込むのは、WBCの緊張感を経験させる点で意味があるからだ。

 しかし、小久保監督にはそうした余裕がなかった。「正直、予想以上にプレッシャーがかかっていた」と振り返ったが、それはある意味仕方がない。指揮官にとっても初めてのWBCの舞台だ。

抑え候補・秋吉が8回途中で登板

 問題は、中継ぎのリレー方法に見られた。「クローザーの第一候補」としていた秋吉亮を8回途中に投入し、9回を牧田和久に任せた起用の理由を聞かれ、「理由というか……今日に限っては予定通りです」と含みを持たせて答えたのだ。

 8回表、2死二三塁からマウンドに上がった秋吉は、登板までの段取りをこう振り返っている。

「(投手コーチの)権藤(博)さんから伝達が来て、『もしランナーが出たら』という感じで言われました」

準備しづらいと言っていられない

クローザーの第一候補だった秋吉だが、8回2死二三塁のピンチで登板し、タイムリーを浴びた 【写真は共同】

 8回の頭から4番手として登板した平野佳寿が2死2、3塁のピンチを招くと、ベンチは秋吉にスイッチ。しかし、グラシアルにセンター前タイムリーを打たれ、2点を返された。秋吉は「一応、準備はしていました」と話したが、ピンチを無失点で切り抜けることはできなかった。

 小久保監督は記者陣の前で「クローザーの第一候補は秋吉」と語っているが、秋吉自身は「そうは言われていないので、自分が抑えなのかはわからない」と話している。

「今日みたいに8回、ああやってランナーがいる場面で行くときもあると思います。それ(登板機会)はその日にならないとわからないので。でも、それでは準備しづらいと言っているような舞台ではない。準備しておかないといけないですし、8、9回なのかなという感じはしています」

プレミア12の韓国戦と同じミス

 あくまで推測だが、8回を平野が抑えていたら、9回の頭から秋吉を送っていたのではないか。もしくは秋吉の登板はこの日はなく、9回を牧田に任せていたのかもしれない。いずれにしてもはっきりしたのは、小久保監督が「今日に限っては予定通り」と話したように、ブルペンの起用法はいまだ固まっておらず、本人たちにも告げられていないということだ。

 則本や秋吉の言うように、投手自身はいつでも行けるように準備をしておくしかない。それがプロフェッショナルの仕事と言えば、それまでだ。しかし、出番が決まっていたほうが、登板までの準備がしやすいことは間違いない。

 さらに言えば、2015年11月に行われたプレミア12の準決勝で韓国に逆転負けを喫したのは、ブルペンの役割分担を明確にしておらず、万全の準備をできなかったことが大きい。この日のキューバ戦は勝利したとはいえ、小久保監督は同じミスを犯しているのだ。

ブルペンの役割を明確にすべき

 超短期決戦のWBCでは、則本が言うように、チームが勝つことこそ最大の収穫だ。ただし、この日勝利したキューバは、11年前の決勝で激突したときのような強敵ではない。主力の多くが亡命し、かつて「赤い稲妻」と恐れられたチームから大きくレベルダウンしている。

 今回のWBCで日本は、組分けにかなり恵まれた。京セラドーム大阪で行われた強化試合を見る限り、キューバ、オーストラリア、中国とも負けるような相手ではない。しかし、2次ラウンドで対戦するであろうオランダやイスラエルは手強い。さらにその先で待つアメリカやドミニカ共和国、ベネズエラは、この日のキューバとは比較にならないほど重量打線を誇っている。そうした相手に勝つには、投手陣が最善の準備をしてマウンドに向かうことが不可欠だ。

 相手の力が劣る1次ラウンドは、ブルペンの役割分担が不明確でも勝ち抜ける。しかし「世界一奪還」を掲げるのであれば、相手がくみしやすいうちにブルペンの形を定めていくべきだ。キューバに喫した被安打11、失点6を、明日への糧にしなければならない。

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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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