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WBC初出場のイスラエルの謎に迫る
過去に存在したプロリーグの実態とは!?

WBCはユダヤ系アメリカ人が参加

2007年にイスラエルのWBC出場を究極の目標に設立されたイスラエルのプロリーグ。1シーズンで休止したが、中日でプレーする前のネルソンも在籍していた
2007年にイスラエルのWBC出場を究極の目標に設立されたイスラエルのプロリーグ。1シーズンで休止したが、中日でプレーする前のネルソンも在籍していた【石原豊一】

 いよいよ来月に迫ってきた第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。16の国と地域が野球世界一を争う大会だが、韓国で開催される1次ラウンドA組に野球界では聞きなれない国がエントリーされている。イスラエルがそれだ。これまで主要な国際大会の出場歴はないに等しいが、メジャー経験者が多数ロースターに加わり、1次ラウンド突破も不可能ではないと言われている。


 イスラエルの主要民族であり、全世界に1400万人超いると言われているユダヤ人。現在このうち過半数がイスラエルに、半数弱がアメリカに居住していることから、ユダヤ系アメリカ人がイスラエル代表に参加するため、今大会の「大穴」と目されているのだ。その中でひとりだけイスラエル生まれの選手としてロースター登録されているのが、38歳のシャロモ・リペッツだ。


 イスラエル第1の都市テルアビブ生まれの彼は10歳の時に母国で野球をはじめ、兵役の後、留学したカリフォリニア大学サンディエゴ校で主戦投手に成長。卒業後はニューヨークで働きながらセミプロリーグでプレーしたところ、誘いを受けて2007年の1シーズンだけプロのマウンドに立った。


 その彼がプレーしたのは母国のプロリーグだった。

元中日のネルソンらがプレー

昨年9月のWBC予選で本戦出場経験のあるブラジルなどを破って、第4回初出場を決めた
昨年9月のWBC予選で本戦出場経験のあるブラジルなどを破って、第4回初出場を決めた【MLB Photos via Getty Images】

 イスラエル・ベースボール・リーグは、アメリカのユダヤ資本によって設立されたプロリーグだった。西アジアに位置するこの国で野球人気などあろうはずはない。現地で人気があるからプロリーグを始めようというのではなく、「不毛の地」になんとか野球を根付かせようというユダヤ系アメリカ人の壮大な理想のもと始められたものだった。


 それまでもアメリカからの移民によって野球は細々と行われてはいたものの、ヨーロッパからの移民が多数を占めるイスラエルにあっては、完全なマイナースポーツ。野球人口は5000人に過ぎない。国内の選手だけではとてもではないが木戸銭を取れる試合はできないので、南北アメリカから大量に選手を集め、なんとかプロを名乗れるレベルにした。外国人選手の割合が約9割、しかもイスラエル人選手は、もっぱらベンチにいたので、フィールドでプレーする選手のほとんどは外国人という世にも妙なプロ野球リーグだった。


 このリーグでプレーした後、中日と契約、開幕投手も務めるなど主戦投手として活躍したマキシモ・ネルソンは、「僕たちドミニカンが入ってようやくルーキーリーグレベル」と評したが、確かにそのレベルはお粗末なものだった。彼のほか、広島でプレーしていたペレス・ブリトー、フアン・フェリシアーノらも在籍していたが、元来投手でこのリーグでノーヒット・ノーラン(但しイスラエルリーグのレギュラーシーズンゲームは7インニング制)を演じたフェリシアーノが、二刀流よろしく、指名打者や代打として打率4割2分9厘という成績を残したところにリーグのレベルは現れている。


 先述のリペッツも、アメリカではアマチュア経験しかなく、ストレートもせいぜい120キロほどしか出せなかったにもかかわらず、シーズン途中の入団後、エースとして3勝1敗、防御率0.98、おまけに27回3分の2イニングで30個の三振を奪っている。

学校の先生や46歳の弁護士も在籍

メジャー通算124勝を誇るベテランのマーキーがWBCでは主戦格となる
メジャー通算124勝を誇るベテランのマーキーがWBCでは主戦格となる【写真:ロイター/アフロ】

 リーグのレベルを支えていたのはネルソンやフェリシアーノらドミニカンで、アメリカからやってきた選手の大半はプロ経験がなかった。中には夏休みを利用して参加していた学校の先生や大学生もおり、わずか2カ月というリーグ期間は、彼らにとって半ば体験型のバカンスの場となっていた。


 そういう「バカンス」の極めつけは、リーグの出資者の知り合いで「コネ入団」した当時46歳の弁護士先生の例だ。野手としてはさっぱり使い物にならず、マウンドからホームプレートまではボールが届くだろうと、投手登録された。彼が先発したシーズン終盤の消化ゲームのマウンドを私は実際に見たが、そのホームベースの手前でお辞儀するストレートか変化球かさえわからない球は、草野球以上のものではなかった。


 結局、イスラエル・リーグはそのお粗末さもあって1年で休止してしまったが、設立の究極の目標であったWBC出場は、今大会でようやくかなえられた。今回ただひとりの「イスラエル人」としてベンチに入るリペッツは、昨年秋の予選からメンバー入りしていたが、残念ながら出番は回ってこなかった。第3回WBC予選にも彼はメンバー入りしていたが、この時はたった1アウトを取っただけで2失点を喫している。


 メジャー通算124勝のジェイソン・マーキーをはじめ、元メジャーリーガーを含むプロ選手で固められた投手陣に割って入るのは難しいかもしれないが、彼にはぜひともWBC本番のマウンドに立ってほしい。その瞬間、あの「約束の地」エレツ・イスラエル(ヘブライ語で「イスラエルの地」)に確かにプロ野球が存在していたと、世界中の野球ファンに示すことになるだろう。

石原豊一

立命館大学大学院国際関係研究科修了。国際関係学博士。専門は、スポーツ社会学・スポーツ産業学。著書に『ベースボール労働移民―メジャーリーグから「野球不毛の地」まで―』(河出書房新社)がある。

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