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青学駅伝部を支えたトレーナーが語る補強トレの重要性
五輪で勝てる選手を育てる方法とは?
2020年東京五輪が近づき、フルマラソンに挑戦する大学生ランナーも増えてきた。この傾向は、選手の負担という面で問題はないのか、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんに聞いた
2020年東京五輪が近づき、フルマラソンに挑戦する大学生ランナーも増えてきた。この傾向は、選手の負担という面で問題はないのか、フィジカルトレーナーの中野ジェームズ修一さんに聞いた【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 昨年の東京マラソン、上位陣を外国勢が占める中、日本人1位となった8位の高宮祐樹(ヤクルト)に続き、下田裕太、一色恭志(ともに青山学院大)、服部勇馬(当時は東洋大、現トヨタ自動車)の現役大学生が上位に食い込んだ。リオデジャネイロ五輪には出場できなかったものの、2020年東京五輪に向けて、大学生世代の選手たちがマラソンに挑戦する機会も増えてきた。


 しかし「若いうちからマラソンに挑戦する」ということはケガや故障のリスクがないのだろうか。今回は若手世代のマラソン挑戦について、青山学院大の箱根駅伝3連覇を支えたフィジカルトレーナー、中野ジェームズ修一さんに話を聞いた。

現代の選手は腱や骨が弱くなっている

トレーナーとして青山学院大を支える中野さん曰く、昨年の東京マラソンの結果は望んでいたものでもあった
トレーナーとして青山学院大を支える中野さん曰く、昨年の東京マラソンの結果は望んでいたものでもあった【スポーツナビ】

――2020年東京五輪が近づき、フルマラソンに挑戦する大学生も増えてきました。この現状に関して、トレーナー視点として、どのような意見をお持ちでしょうか?


 私たちは青山学院大で原晋監督とともに学生選手の体作りを担当していますが、大切に考えていることは、あくまでもフルマラソンを目的としていることです。


 当然、距離が長くなれば長くなるほど、体に余計な重さをつけたくありません。逆に距離が短くなった場合は、重さはあってもいいのですが、パワーを付けたい。ですから(箱根駅伝などの)20キロと(フルマラソンの)40キロでは倍の距離なので、体作りのバランスも変わってきます。


 青山学院大の選手たちには、フルマラソンを目的としてメニューを考えていますが、それはいずれ「世界を狙う」という目的でして、原監督のオーダーでもあります。ですので、昨年の東京マラソンでその成果が出たのは望んでいたことでしたし、良い傾向にあると思っています。


――具体的にはどんなトレーニングの違いがあるのでしょうか?


 当然、短い距離になればなるほど、強い力が必要ですので、アウターマッスルという外側の筋肉がメインになります。ですが、距離が長くなれば長いほど、持久力のある筋肉のトレーニングが重要で、さらに外側に余計な重さをつけず、最低限の筋肉で効率よい走りに特化しないといけません。


――フルマラソンでは大体1キロ3分前後、20キロでは2分50秒前後のペースとなりますが、やはりそこで体にかかる負荷は変わると?


 かかる負荷というよりも、使うパワーがどれだけなのかです。短い距離ならパワーが必要になりますし、長くなると持久力が必要になります。もともと、トレーニングというのは非常にきついです。楽なトレーニングでは体は変わりません。ですから練習以外でトレーニングをさせるということは、選手にとって負担になります。


 特にマラソンのようなスポーツだと、疲労を早く抜きたい。疲労が溜まっている状態だと、いい練習もできませんし、レースもできません。ですからトレーニングによる余計な疲労をかけたくないので、より効率的で最低限なものを取り入れています。


 また大きな負荷を加えると、今の若い子たちはそれだけでも体に過剰な負担がかかってしまい、リカバリーしずらくなってきています。やはりそこは今の大学生もそうですが、高校生も含めて体が弱くなってきていることが要因です。


――体が弱くなっているというのは、どういう点にあるのでしょうか?


 私は整形の先生と話をする機会があるのですが、故障した選手の手術をして下さった方と話をすると、口をそろえて言われるのが、「昔の選手はこんなに腱が細くなかった」ということ。腱がもっと太かったし、もっと骨も丈夫だったと言われます。


 今の若い選手たちは、子供のときに野原を駆け回ったり、鬼ごっこをしたり、体を動かして遊ぶことが減りました。それこそ、ジャングルジムに登って、落ちてケガをするという子も少ないです。遊びといえばゲームが中心で、体を動かすことが少ない。そうなると、腱も細く、骨も弱くなってしまいます。そういう環境下にあり、練習で疲労骨折を起こしてしまうことも多いのです。


 また骨が折れやすい原因の1つとして、リンの過剰摂取もあります。リンというのは、加工食品に多く含まれていて、出来合いの食事、お菓子などばかりを摂取すると、どうしても骨は弱くなります。


 このような状況の中で、現在監督などを務めているような体が丈夫だった時代の選手が行っていたメニューをそのままやったら、体が壊れてしまいます。ですから原監督のメニューは、そのバランスが絶妙なのだと思います。体が弱いということを認識し、故障を減らし、それでも走らなかったら強くなれないので、補強トレーニングが必要になるのです。

基礎的な補強トレーニングは高校時代に見につけて欲しい

――補強トレーニングの重要性というのはどんなところにあるのでしょうか?


 トレーニングの知識がない人たちは、「若いときにトレーニングをさせてはいけない」と言われます。ですがそれは、トレーニングの専門家からしたら、本当にちゃんと知ってから発言して欲しいです。


 過剰に筋力トレーニングをさせると成長痛が出たり、骨が柔らかい段階でやってしまうと骨に異常が出たりと、成長段階でトレーニングをさせすぎると問題点もあります。ですが、それはどれだけの負荷を加えるのか、どれだけ関節を曲げるのか、どういう風に負荷をかけるのかを考えれば、まったく問題がないのです。昔の人たちは、比較的、トレーニングをしなくても走れたのですが、それは先ほども言いましたが体が丈夫だったからです。ですが今の子たちは、小学生、中学生からでもトレーニングさせないといけないぐらい、体が弱くなっています。


 スポーツの練習メニューをこなしているだけでケガをしてしまう現状では、補強トレーニングはものすごく重要で、フィジカルトレーナーの需要は今後もっと増えてくると思います。最近は大分、選手に帯同するフィジカルトレーナーも増えてきましたが、それはいい傾向だと思います。


――その中で著書の「青トレ」でも注目が集まりましたが、箱根駅伝を制した青山学院大が取り入れているトレーニングが効果を発揮したということなんですね。


 私が青山学院大の選手に一番最初にやってきたことは、体を安定させる。体幹を使って安定させるということでした。しっかり体を安定させれば、フォームも良くなりますし、タイムも上がります。また障害予防にも、ある程度効果が出ました。


 また同時にケアも徹底しました。ストレッチやアイシングという基礎的なことです。そのために筋肉の部位とメカニズムを全部教え、何の筋肉を、どのように作用させるかを筋肉図を見てもらいながら、覚えてもらいました。それによってケアに関しても、今までもストレッチはやっていましたが、伸ばしている筋肉と、伸ばしていない筋肉がどこなのか、そしてアイシングをどうやればいいのか、どう巻けばいいのかを教えました。


 強化に関しては、その後に続けてやっています。


――最初に基礎的な部分を徹底させ、体を守るためのトレーニングや知識を付けさせたと。


 ただ本来それは、高校時代にできていて欲しいです。ストレッチのやり方、アイシングのやり方、準備運動のやり方も分からない状態で大学に来るのではなく、高校時代に教わっていて欲しく、大学に入ったら専門家のトレーナーにつき、強化トレーニングプログラムをもっとやって欲しいです。


 そうすれば、大学の間に実業団でやっている強化プログラムを4年間しっかりできたら、その中から五輪を狙える選手が出てくると思うんです。


 何故、大学時代に五輪を狙って欲しいかと言いますと、五輪は4年に1度しかありません。ということは、実業団に入ってからだと、チャンスは1度か2度。しかし、大学からできれば、3回のチャンスになるかもしれないからです。

 五輪に出場するには、運やタイミングが必要です。その時の気象条件だったり、体調面の調整だったり、それをたった1回のチャンスにすべてをかけるのはものすごく大変です。それが3回のチャンスになれば、可能性は変わってくるのです。ですから、私はフィジカルトレーナーとして、それを支えたいと思っています。

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