石崎信弘が九州リーグの宮崎を選んだ理由 原動力は「選手を育てたい」という思い

江藤高志

選手のためにトレーニングしていきたい

石崎監督(中央)は選手やスタッフについて「育てたい」と度々口にした 【江藤高志】

――練習初日の選手たちの第一印象はどうでしたか?

 言われたことを一生懸命にやっていたね。あれで適当にやられたら頭にくるし、怒る必要があるけれど、今日(1月16日)は一生懸命にやっていたよ。

 柳田社長からは、今後どういうメニューを考えているのかを聞かれるけれど、それは分からないよと。事前に綿密にメニューを決めてやる感じじゃないからね。状況を見ながら自分が持っている選択肢を出していくという考えでやっているから。

――そんな中で目標とするスタイルは?

 こういうサッカーをやりたいというのは、昨日(1月15日)の5時からのミーティングの時に選手を集めて動画を編集したやつを見せた。動画を編集したのは今季から(川崎)フロンターレに行く二階堂(悠/元山形のコーチ)だけどね(笑)。

 山形と外国のチームの試合映像を作ってもらってね。(動画は)作れんから。ミーティングをやりたいからこういう動画を作ってくれと。ギャラはワシが焼くお好み焼きということでね。

――外国のチームというのはどこですか?

 あいつはキャパが広いからいろいろな映像を集めている。スペインがあったり、イングランドがあったり、イタリアがあって中国があって。

――二階堂さんにはどんな映像をオファーしたんですか?

 山形でやっていたサッカーをやりたいから、そういうのを集めてくれと。攻撃の目的はシュートを打つということ。ディフェンス(の目的)はゴールを守るのではなくてボールを奪う。そういう話をしたんだよね。そこらへんの話を元にしてビデオを作ってくれた。

――山形時代のビデオは何戦だったんですか?

 J1が多かったな。フロンターレ戦もあったよ。

――あの試合の山形は良かったですね(15年3月22日J1・1stステージ第3節、山形が1−0で勝利)。

 そうだね。その後の等々力でやったナビスコカップの試合とかね(15年5月20日予選Bグループ第5節/1−1)。

――15年シーズンはフロンターレに負けていないですよね。

(リーグとカップ戦で)1勝2分けだよ。(柏)レイソルにも1勝1分け。ああいうつないでくれるサッカーには強いんだけど、(ヴァンフォーレ)甲府のようなサッカーには合わない。

――九州リーグはアマチュアなわけで、前からボールを取りにいくサッカーをすると、じゃあ蹴ろうとか、リトリート(ラインを下げて自陣にブロックをつくって守る戦術)しようという対策になります。それに対する処方箋はあるんですか?

 それはあるけれど、理想のサッカーをやっていかないと上には行けないからね。ワシ、選手を育てたいんだよ。勝つのが監督としては一番かもしれないけど、選手のためにトレーニングしていきたいからね。

――何人かの選手がどこのディビジョンにせよJに引っ張ってもらえたらそれはそれで監督冥利(みょうり)に尽きるというか。

 そうだよな。去年J2で(レノファ)山口とやって衝撃を受けたからな。面白かった。J1ではフロンターレ、J2では山口が面白かったな。山口の選手なんてほとんど無名なんだよ。それでもあれだけのサッカーをやれた。だから地域リーグの選手も頑張れば、上のカテゴリーで通用するレベルの選手になるんだよ。

――現場のスタッフを育成するという目線もあるんですか?

 それはそうだよ。今日(16日)は最初、フィジカルコーチが仕切っていたけど、お前に任せるからお前の好きのようにやれと1時間任せた。足りないことがあれば、あとでワシがやるからと。そうやって責任を与えないと考えない。何かあった時に、それは上から言われたからという話になる。自分の失敗を認められなくなる。もし失敗したときは、フォローすればいいだけだからね。

――この仕事を受ける前の九州リーグに対するイメージは?

 ないよ、JFLすら知らんのに(笑)。話が来ていろいろ調べたら、Jを目指しているチームが宮崎には2チームあって(テゲバジャーロ宮崎とJ.FC MIYAZAKI)、アマチュアのホンダロックがJFLにいる。この3つを1つにしたら強くなるんじゃないかとか思うけど、そこらへんは知らん(笑)。

指導者としてもっと成長したい

「もっともっといい指導者になりたいと思っている」と語った石崎監督 【江藤高志】

――九州リーグでは標的にされると思うのですが、苦しいシーズンを覚悟しなければならないのでは?

 まだ分からんよ。九州リーグのレベルも分からないのに(笑)。そもそも自分のチームのレベルも分からない。Jだったらまだ知っている選手が何人かいるけれど、ここはほとんど知らない選手ばかりだしね。

――九州リーグで勝てないと、経歴に傷が付きかねないのでは?

 ワシにとってはJ1、J2とかは関係ない。サッカーができればどこでもいい。それは給料がいい方がいいとは思うけれど。さすがになんで九州リーグなのかということは言われたけどね(笑)。

――生きざまですかね。指導者魂というか。

 もっともっといい指導者になりたいと思っているからね。だからいろいろなことをしてきたし、(風間)八宏のDVDも買ったよ。高かったけどね(笑)。仲がいいわけじゃないけれど、八宏は素晴らしいと思う。日本の中で八宏くらいだな。いい監督だと思うのは。

――それはなぜですか?

 フロンターレのサッカーが面白いからね。つまりボールが前に行くんだよ。後ろでボールを回しているだけのチームとは違う。ポゼッションではなくて、ボールをどれだけ前に入れられるのかというところ。だから全部見ていた。面白いところもいっぱい編集してある。それをやらせたのは二階堂なんだけどね(笑)。

――去年のフロンターレは攻守にバランスが取れるようになりました。

 そうなるまでに5年かかったけどな。それだけ時間がかかる中でチームを作る時に必要なのが、強化の人の判断と覚悟。サッカーを転換させていく時には覚悟を持たないといけない。でも成績が出ないと苦しくなる。そこで簡単に監督を代えたら何も変わらん。だから一番大事なのは強化(スタッフ)なんだよ。監督よりもまずは誰を監督にしてどれだけ我慢できるのかということ。もちろん成績については監督が言われるのかもしれんけど、強化に批判される覚悟があるかどうか。

――4月の九州リーグ開幕が楽しみですね。

 その前に3月の頭に天皇杯の初戦がある。県予選は3試合で、準決勝でホンダロックとやるのかな。さすがに弱くないだろうし、そう簡単じゃない。

――初日の練習を終えて、また新たな一歩を踏み出しました。

 23年目だね。だからすごいねと言われるけどワシは選り好みしないからやれるんだよ。中国にしても九州リーグにしてもそう簡単に引き受けられるものではないからね。

――このまま持ち上がってJまで行ければ……。

 グラウンドがなかったり、甘いものではないからね。スタジアムがなかったり。Jは今、クラブライセンス(制度)いうのがあるだろ? 将来のことは分からんが、ワシはやるだけ。頑張るよ。

2/2ページ

著者プロフィール

1972年、大分県中津市生まれ。工学院大学大学院中退。99年コパ・アメリカ観戦を機にサッカーライターに転身。J2大分を足がかりに2001年から川崎の取材を開始。04年より番記者に。それまでの取材経験を元に15年よりウエブマガジン「川崎フットボールアディクト」を開設し、編集長として取材活動を続けている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント