セビージャに成長をもたらしたサンパオリ シメオネとの共通点と異なる「美意識」

サンパオリとシメオネに見られる共通点

選手たちとともに戦っているかのようにタッチライン際で感情をあらわにするなど、サンパオリとシメオネには共通点がある 【Getty Images】

 選手たちにハードワークを要求すること、選手たちとともに戦っているかのように毎試合タッチライン際で感情をむき出しにすることなど、サンパオリは同郷でアトレティコ・マドリーの監督を務めるディエゴ・シメオネと共通する特徴を持っている。

 15年のコパ・アメリカでは主力選手の1人であるアルトゥーロ・ビダルが大会中に交通事故を起こすアクシデントに見舞われながら、地元開催のアドバンテージを最大限に生かして優勝経験のないチリに初タイトルをもたらした。

 同大会の決勝ではサンパオリの信条である厳しいマークと息もつかせぬプレッシングにより、リオネル・メッシらアルゼンチンの選手たちを大いに苦しめた。ただ、選手全員に守備面でのハードワークを強いたため、ホルヘ・バルディビアのようなクラシカルな10番、ビダルやアレクシス・サンチェスらアタッカーが攻撃面で輝きを失うことにもなった。

「クラシカルな10番」タイプを好むサンパオリ

特定のクラブがタイトルを独占してきたスペインフットボール界において、セビージャの躍進は良い知らせだ 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】

 いくつかの共通点がある一方で、サンパオリとシメオネは全く異なる美意識を持っている。かたくなに実利と効率性にこだわるシメオネとは違い、マルセロ・ビエルサの元で学んだサンパオリは勝ち点を稼ぐこと以上に特定のメソッドにこだわり、チームが特定の美学を貫くことを求める監督だ。

 プレー面におけるアトレティコ・マドリーとの具体的な違いとしては、ピッチ全域で仕掛けるアグレッシブなプレッシングにある。またサンパオリはナスリやバスケスに加えてガンソも併用することがあるほど、テクニックに長けた選手を中盤に多数起用するという特徴もある。

 クラシカルな10番が絶滅の危機に瀕している現代において、サンパオリは彼らのような10番タイプの選手を好む数少ない監督だ。またFWにもゴールだけでなく、独力もしくは周囲とのコンビネーションによって局面を打開できるテクニックを持つ選手を好む。新たに加入したヨベティッチだけでなく、昨夏に獲得したルシアーノ・ビエットやウィサム・ベン・イェデルもそのようなタイプのストライカーだ。

 セビージャは過去に手にした成功に満足することなく、さらなる高みを目指して成長し続けている。しかもこのチームにはまだまだ伸びしろがある。それは常に特定のクラブがタイトルを独占してきたスペインフットボール界にとって、間違いなく良いニュースである。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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