オランダで奮闘する日本人コーチ 2つの国で感じた指導者の在り方
「お金がないからこそ、継続性が生まれる」
スタジアム正面に掲げられているライアン(右)とルイジ(左)の写真。2人はジュニアコーチとしてもクラブに貢献している 【中田徹】
「エクセルシオールのユースに関しては特にフィジカルが変わったと思います。週2回は筋トレをし、サッカー選手というよりラグビーやアメフトの選手の体つきを目指しているような気がします。
オランダのユースはプレスの位置が高くなって、運動量も格段に上がっていると思います。近年、オランダのチームが国際試合で勝てない時期が続いており、少しショートカウンターのトレンドに寄っているように感じます。以前はウイングがあまり守備をしなかったのと、サイドバックが高いポジションを取らなかったのですが、この部分は全部変わっていますね。今はもうサイドバックがガンガン前へ上がっています」
同じロッテルダムにあるビッグクラブのフェイエノールトと、小クラブのエクセルシオールの違いは何だろうか?
「フェイエノールトはいろんなことができる選手が多く、パスを止める・蹴るのレベルはかなり違いますね。ただし、走るのが速いとか、パンチのあるシュートを打てるとか、そういうのは、もしかしたらエクセルシオールの方がうまい選手がいるかもしれません。先日U−19の試合でエクセルシオールがフェイエノールトに3−1で勝ちました。フェイエノールトが攻撃して、エクセルシオールがブロックを作る形で試合が進んだんですが、うち(エクセルシオール)の3点は全部カウンターからでした。
1点目は相手のサイドバックを吹き飛ばしてクロスを入れて、それがゴールになりました。エクセルシオールは野獣系で戦う選手が多い。やんちゃな子も集まってくるので、指導者としては難しいですけれど、言うことを素直に聞く選手より面白いです。その子たちは僕にも分からないポテンシャルを持っている。自分が指導し勝たせているというより、その子たちのプレーを楽しんで見ているイメージです。昔のフェイエノールトもそうだったんでしょうが、今は洗練された選手が集まっています」
エクセルシオールは「ファミリークラブ」とよく言われる。トップチームのキャプテン、ライアン・コールワイクと、ベテランのテクニシャン、ルイジ・ブラウンスはもっと上のクラブでプレーできる技量を持っているが、小さな頃から育ててもらったエクセルシオールに戻ってきて、中心選手として活躍するばかりではなく、自身の子どもがいるジュニアのコーチとしてもクラブに貢献している。マルコは育成のエキスパートとしてエクセルシオール在籍18年を数え、アンドレ・フークストラはトップチームのアシスタント・トレーナーを17年も務めている。
「他のクラブよりお金はないし環境も悪いから、自分たちでいろいろアイデアを出してやらなければいけない。こうしてファミリー性がクラブの中で育まれていきます。それがエクセルシオールの秘密でしょうか。これがお金のあるクラブだったら、ここまでファミリーなることはないと思いますし、フークストラもマルコもクビになっていたでしょう。
お金がないからこそ、継続性が生まれる。選手もここが好きです。ファン・ペルシがなぜ帰ってきたがっているのかと言ったら、ここが好きだからです。サッカーはお金じゃなくて、『チーム愛』なのかなと思います。日本の街クラブは卒団した選手が活躍したら帰ってくる。高校サッカーなら、帰ってきたら会える先生がいる。エクセルシオールはその雰囲気に似ています。エクセルシオールも、ここに帰ってきたら『いやあ久しぶり』と会えるコーチがいる。プロになれなかった選手もエクセルシオールに戻ってきて、コーチ研修を受けることが多い。そこがファミリーだと言われるゆえんだと思います」
将来の夢は教え子とクラブをつなぐこと
日本では不利と言われる早生まれだが、「オランダではチャンスがある」と小坂は語る 【中田徹】
「将来は高校サッカーの指導者になりたい。そして、エクセルシオールに自分の教え子を送るのが目標です。藤枝明誠は毎年、オランダに修学旅行に来ますが、自分のサッカー部も毎年オランダに来るようにして、生徒たちにオランダを感じてもらい、そこで良い選手がいて目を付けてもらえればエクセルシオールに選手を送れるかなと考えています。今、チャンスがあるのは早生まれの子だと思ってるんです」
日本の育成年代では早生まれの子どもは不利だと言われている。
「早生まれの子どもは、オランダに来ると学年が1つ下になるんです。なので、高校サッカーを12月に引退したら翌年の1月から5月までの半シーズンと、さらに1シーズンをオランダのA1(U−19相当)で過ごせるんです。そういう選手をオランダに送って研修を受けさせ、エクセルシオールのトップに上げることができればと考えています。
逆にオランダだと10月〜12月生まれの子がハンディを持っているんですが、エクセルシオールでは同じ能力の子どもが2人いたら、成長の余地がある生まれの遅い子を獲得します」
小坂は日本のジュニアユースの決勝戦のメンバーリストを見て、優勝チームに早生まれの選手が1人もいないことに気付いた。
「12月生まれの子が辛うじて1人だけいました。だからこそ、僕は早生まれプロジェクトをやりたい。マルコに『選手をエクセルシオールに送りたい』と言ったら『ぜひ』と。その選手がやがてビッグクラブに移籍して、エクセルシオールにお金を残してくれれば、僕のエクセルシオールへの恩返しになります。
日本代表級の選手にもエクセルシオールはお勧めですよ。昔、日本人選手がビッグクラブへ行っても出場機会がなかったように、僕はもっとちゃんと自分のレベルに合うところへ行った方がいいとずっと思っていた。エクセルシオールは確実にステップアップになるチームだと思うので。お金の部分ではなく、自分への投資としてエクセルシオールに来れば、ステップアップだけでなく、サッカーの楽しさを再確認できると思います。エクセルシオールでなくても、同じオランダのクラブであるVVVフェンロからは、本田圭佑選手や吉田麻也選手がステップアップしていきました。
僕にはエクセルシオールとマルコへの感謝がある。ここはトップチームの選手でもサポーターに支えられているという意識があります。特にルイジやライアンを尊敬しています。僕はまだコーチとして何も成し遂げていないので、これからどんどんチャレンジしてエクセルシオールに貢献したい。僕にはエクセルシオールへの愛があるんです」