田中刑事、日野龍樹それぞれのNHK杯 同級生・羽生結弦の背中を追いかけて
日野「現実を突きつけられた」
FSの後、日野は羽生から「もっとこいや!」とゲキを受けた 【写真:ロイター/アフロ】
日野にとってこのNHK杯は、キャリアを浮上させるまたとないチャンスだった。前日会見では「長年出たかった大会ですし、今回出場できなかった選手に『こんな演技だったら自分が出たほうがよかった』と思われない、出るに値する演技をしたいと思う」と、独特の言い回しで決意を語っていた。
だが、SPは4回転を入れなかったこともあり、72.50点と自己ベストを更新しながら9位にとどまった。翌日のFSでは、4回転トウループに挑んだものの転倒。後半にも3回転フリップでエラーを取られるなど細かなミスが散見され、結局SPから変わらず9位のまま初のGPシリーズを終えた。
「あっという間に終わってしまいました。ミスが出たし、動きが硬かった。課題が見つかったことが収穫です。現実を突きつけられた大会になりました」
現在の男子フィギュアスケート界は空前の「4回転時代」。4回転ジャンプなくして、高得点は望めない。日野はSPで4回転ジャンプを入れなかったが、「跳べていたころの感覚がなくなってしまい、組み込むことができない状態だった」という。FSでは挑戦したものの、結果は最初から見えていた。
同級生2人が表彰台に立ったことはうれしくもあり、悔しいことでもあったはずだ。羽生からは「もっとこいや!」とゲキも受けた。このまま終わるわけにはいかないし、モチベーションも落ちてはいない。
「でも僕はこれまでも急成長はしてこなかったんです。高校1年生でジュニアGPシリーズに初めて出たときも、僕の出来自体は悪くなかったのに、全体のレベルの高さに跳ね返された。ユヅのように順風満帆には来ていないので、『もうちょい待って』という感じです。ただ、気にかけてくれるのはありがたいです。次の全日本選手権までに少しでもレベルを上げたいと思っているので、『頑張っているんだな』とユヅが思ってくれればいいなと思っています」
いつか再び3人で競い合う日を夢見て
一方、羽生とのレベル差をまざまざと見せつけられた田中と日野は決意を新たにしている。道のりはまだ遠いが、少しでも距離を縮めていくために新しい技も積極的に取り入れていくようだ。そしていつか再び3人で競い合う日を夢見て、田中と日野はこれからも羽生の背中を追い続けていく。
(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)