田中刑事、日野龍樹それぞれのNHK杯 同級生・羽生結弦の背中を追いかけて

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日野「現実を突きつけられた」

FSの後、日野は羽生から「もっとこいや!」とゲキを受けた 【写真:ロイター/アフロ】

 一方の日野は、田中と同じくシニアは3シーズン目で、このNHK杯がGPシリーズ初出場。しかし、当初から出場が決まっていたわけではなく、16歳の山本草太(愛知みずほ大瑞穂高)が負傷により欠場したことで機会が回ってきた。全日本ジュニア選手権2連覇(11年、12年)、ジュニアGPファイナル3位(12年)とジュニア時代は実績を残しているものの、シニアに移行してからは伸び悩む。繊細な性格が災いしてか、思うような演技ができなかったときは「自分に落胆した。思い通りにいかないなら練習なんてしてくるんじゃなかった」と、ネガティブな言葉が口を突いて出てきたこともあった。

 日野にとってこのNHK杯は、キャリアを浮上させるまたとないチャンスだった。前日会見では「長年出たかった大会ですし、今回出場できなかった選手に『こんな演技だったら自分が出たほうがよかった』と思われない、出るに値する演技をしたいと思う」と、独特の言い回しで決意を語っていた。

 だが、SPは4回転を入れなかったこともあり、72.50点と自己ベストを更新しながら9位にとどまった。翌日のFSでは、4回転トウループに挑んだものの転倒。後半にも3回転フリップでエラーを取られるなど細かなミスが散見され、結局SPから変わらず9位のまま初のGPシリーズを終えた。

「あっという間に終わってしまいました。ミスが出たし、動きが硬かった。課題が見つかったことが収穫です。現実を突きつけられた大会になりました」

 現在の男子フィギュアスケート界は空前の「4回転時代」。4回転ジャンプなくして、高得点は望めない。日野はSPで4回転ジャンプを入れなかったが、「跳べていたころの感覚がなくなってしまい、組み込むことができない状態だった」という。FSでは挑戦したものの、結果は最初から見えていた。

 同級生2人が表彰台に立ったことはうれしくもあり、悔しいことでもあったはずだ。羽生からは「もっとこいや!」とゲキも受けた。このまま終わるわけにはいかないし、モチベーションも落ちてはいない。

「でも僕はこれまでも急成長はしてこなかったんです。高校1年生でジュニアGPシリーズに初めて出たときも、僕の出来自体は悪くなかったのに、全体のレベルの高さに跳ね返された。ユヅのように順風満帆には来ていないので、『もうちょい待って』という感じです。ただ、気にかけてくれるのはありがたいです。次の全日本選手権までに少しでもレベルを上げたいと思っているので、『頑張っているんだな』とユヅが思ってくれればいいなと思っています」

いつか再び3人で競い合う日を夢見て

 合計300点超えを果たし優勝した羽生、GPシリーズで初となる3位表彰台を勝ち得た田中、そして9位と現実を思い知らされた日野。同級生3人がシニアの国際大会で初めて顔を合わせたNHK杯は、明暗がくっきり分かれる結果となった。羽生は大会から一夜明けた取材対応で、2連覇が懸かる平昌五輪に向けて4回転ルッツの習得を示唆しており、さらなるレベルアップに貪欲な姿勢を見せた。

 一方、羽生とのレベル差をまざまざと見せつけられた田中と日野は決意を新たにしている。道のりはまだ遠いが、少しでも距離を縮めていくために新しい技も積極的に取り入れていくようだ。そしていつか再び3人で競い合う日を夢見て、田中と日野はこれからも羽生の背中を追い続けていく。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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