Jチェアマンが見たBリーグの盛り上がり ハピネッツのホームにあった多くの気づき
プロリーグの先輩からの提言
試合会場のCNAアリーナ★あきたに大型ビジョンがあるものの、リプレー映像が流れることはなかった 【宇都宮徹壱】
「これは良い面と悪い面があるのですが、第一印象としてアリーナ全体がサッカーでいうゴール裏のノリですよね。イチゲンさんとしては少し戸惑うかもしれません。全員が同じ手拍子とか、掛け声で応援しているので」
確かにサッカーの場合であれば、熱狂的なファン・サポーターはいわゆるゴール裏で飛び跳ねたり歌ったりしながら応援し、じっくりと観戦したいのであればメインやバックスタンドに座る、というように明らかな棲み分けがある。もちろん競技によって観戦文化が存在するので、どちらが良い悪いではない。しかし、全員が全員「ウェーブが来たら必ずしたい」と思うわけではないことは確か。むしろ「させられている」と違和感を感じてアリーナから足を遠ざけてしまうファンがいる事も考えられなくはない。現在は開幕ブームもあり、日本にバスケットボールの観戦文化を根付かせるためにも、アリーナ競技ならではの一体感や盛り上がりを大切にするべきであることは間違いない。しかし、ファンサービスの世界に長く生きてきた村井チェアマンがやや戸惑いを感じたこともまた事実である。
もう一点、村井チェアマンが会話の最後にぼそっとつぶやいた一言も見逃せない。
「そういえば、バスケってアリーナの中でリプレーは流さないんですかね?」
バスケの試合会場がいくら客席とコートが近いからといって、ファン・ブースターはシュートシーンやファールシーン、好プレーなどは試合中に見返したいものだ。この日の試合会場となったCNAアリーナ★あきたには大型ビジョンこそ存在するものの、リプレー映像が流れることはなかった。サッカーでは当たり前のファンサービスであるからこそ、村井チェアマンは素朴な疑問としてつぶやいたのであろう。ハード面の整備は決してサッカー界でも整っているとは言えない状況である。しかし今やリプレー映像はJ1のどこのスタジアムでも当たり前に行われているサービスだ。
「親戚」ともいえる関係性
Bリーグの大河チェアマンを「親戚みたいなもの」と表現した村井チェアマン 【宇都宮徹壱】
2010〜15年に渡りJリーグに在籍していた大河氏は、管理統括本部長兼クラブライセンスマネージャー、その後は常務理事として主にクラブライセンス制度の確立などに尽力してきた実績を持つ。川淵三郎氏が日本バスケ界の大改革に乗り出した15年には、川淵氏からリーグの規約・規定やクラブ経営に関して相談を受けたほどの実力者である。
Jリーグ常務理事という肩書からも分かるように、Jリーグのキーマンの一人として活躍しており、村井チェアマンとともにJリーグを支えてきた。村井チェアマンも「親戚みたいなもの」と表現するほどの仲である。どのような気持ちで見送り、現在の大河氏をどのように見ているのだろうか。
「最初に大河さんがBリーグへいくという話を聞いた時、これはすごくいいなと。こちらからすると大変な痛手ではあるんですけれど、大河さんがやるって言うんだったら応援しましょうって思いました」
そう語る村井チェアマンの表情からは、どこか仲間を惜しむ気持ちも感じられた。
「競技ルールは全く違いますが、経営という観点だと類似の項目が多いんです。アリーナとスタジアムという違いはありますが、大河さんはJリーグがプロスポーツとして必要なことはほぼインストールしていると思います。その上でJリーグにできないことをバスケに生かそうとしている。バスケットボール協会とBリーグが一緒になってマーケティングするような会社を作ったり、すごくうまくこの短期間でスタートアップされた。さすが大河さんという感じです」
そう言い終えると、先ほどとは大きく変わり笑顔で目を輝かせた。大河チェアマンへの大きな期待が感じられた。いや、大河チェアマンではなく、日本バスケットボール界への期待とも言えるものだ。
「スポーツというものが顧客を奪い合うなんてことは絶対にあり得ない。複数、複合のスポーツをみんなで楽しむ土壌ができている。なぜなら、それを支えたり応援するファンや、サポートする行政や企業の存在があるからです。スポーツは非常に大事な公共財であるという認識はすでに広まっています。野球も結構見にいったりするんですよ。やっぱりスポーツを楽しんでいる人たちが多いっていうのはすごく良いことですし、うれしいんです」
BリーグとJリーグが“親戚”でありながら“ライバル”として刺激し合うことができれば、日本のスポーツ環境は劇的に変化するのではないだろうか――。そう感じさせてくれる、村井チェアマンの秋田視察であった。
(取材・文:澤田和輝)