ペップのメソッドを少年チームで実践する スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(12)

木村浩嗣

迷子が出ないか不安だったが……

見渡すとこんな感じ。手前がロンドモビル(移動ありの鳥かご)。その向こうがフィジカル、一番奥の壁近くがパス交換。ゴール前でGKだけの特別練習。見ている父兄は、動線が複雑で何をしているか分からないと思う 【木村浩嗣】

 実は、バイエルン時代のグアルディオラは、この巨大サーキットをウォーミングアップに使っていた。グラウンドを周回するだけでは持久力しかつかないが、このやり方なら体を温めている間に技術とフィジカルの向上が見込めるし、メーンメニューでに入る前の戦術的な準備もできる、という一石三鳥を狙ってのものだ。

 だが、少年サッカーレベルだったら十分メーンメニューでいける。課題は、プロの選手のように自分たちでサーキット間を移動し、エクササイズの内容に応じて2人組や4人組を作ったりという自主性の高いメカニズムを、わがチームの10歳、11歳の子供たちが理解できるかというものだった。

 迷子が出ないか不安だったのだが、練習3日目くらいから子供たち同士で教え合って問題なくこなせるようになった。自主性やオーガナイズ力もこのやり方だと身に付くようだ。その他、1カ月間、この「グアルディオラ方式」をやってみて、いろいろなメリットが見えてきた。

 子供にとって最大のメリットは楽しいこと。

 15分間連続でフィジカル練習をやらされると、疲れるしダラける。だが、新方式だとフィジカルの後にゲーム性の高い戦術サーキットが入っているので気分転換ができる。3、4分間で次のサーキットへ行くため、エクササイズによって単独、2人組、4人組と構成するメンバーも変わるという目新しさが、子供の好奇心を刺激しているのが分かる。

プロのまねをした練習が実戦にどう生きるか

 指導する側にとってのメリットは「管理がものすごく楽!」というのに尽きる。

 1つのサーキットを1人の指導者が担当し、オートマチックに次々とやって来る子供たちをアテンドすれば良い。いわばベルトコンベアーの前での製品チェックの感覚である。少年サッカーの現場では、限られたスペースで多くの子供をいかに無駄なくエクササイズさせるのか、という練習のオーガナイズが重要なのだが、このやり方なら子供たちが「A→B→C→必要なら給水→A……と動く」と理解した時点でそれが終了しているので、指導者の方も純粋にエクササイズの出来だけに集中できるのだ。

 技術、フィジカル、戦術と個別に中断入りで練習するよりも時間の無駄がないし、練習終了時間だけを気に留めておいて、「はい、終わり!」とどのタイミングで切っても不公平が起きない。技術偏重、フィジカル偏重、戦術偏重などムラが出る心配がなく、サッカーに必要な3要素がバランスよく身に付くし、さらにシーズンを通しての成長プロセスの管理もA、B、Cの難易度と強度を上げていくだけと極めて簡単、良いことづくしだ。

 唯一、このやり方ではゲーム感覚が身に付かない。よって、巨大サーキットトレーニングはグラウンド半面(11人制グラウンドの4分の1)に29人の子供たちがひしめく火曜、木曜だけ。グラウンド全面(11人制グラウンドの半面)が使える水曜の練習は、複数が参加する戦術練習(集団でのプレスやセットプレーの攻守、カウンターアタックなど)+ゲームにして不足分を補っている。

 新シーズンに入ってまだ1カ月で、子供たちのレベルを見ても一昨シーズンのように優勝を狙える、というチームではない。だが、大変有能なアシスタント2人を加え、私も含め総勢4人の日本人テクニカルチームでスタートした16−17シーズンは、指導の質という点では、これまでで最高のものになりそうな気がする。リーグが開幕している来月は、練習が実戦にどう生きているか、という報告ができると思う。プロのまねをして練習させている子供たちの成長ぶりが楽しみだ。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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