再起を目指すサバシア、ただ勝利のために 依存症からの克服と投球スタイルの変化
チーム優先で周囲に気遣いも
09年はエースとして19勝を挙げ、ヤンキースのワールドシリーズ制覇に貢献した 【Getty Images】
「07年にインディアンスはシーズンを1週間残して地区優勝した。CCは19勝を挙げていたが、プレーオフに向けて万全の体制で臨みたかったので残りのシーズンで投げさせないことを決めた。最多勝と初の20勝が懸かっていたから難しい決断だった」
球団の意向を伝えられた当時27歳だった左腕は「20勝は気にしていない。プレーオフで勝つことが何より大事なことだから」と笑ったという。
ウィリス氏は「人のことを気にかけ、全力で野球に情熱を注ぐ。若い頃からチームを優先する姿勢は変わらない」と人柄に太鼓判を押す。ヤンキースではメジャーに昇格した若手が萎縮しないようにサバシアから挨拶して感激されるといった光景も見られる。
投球スタイルを変えて30試合に先発
36歳を迎えて、変わる勇気が求められたのはマウンドでも同じだった。30台中盤になって成績が下降していたサバシアは14年に膝を痛めて3勝に終わり、昨季も6勝10敗、防御率4.73と不振。かつての剛球は陰を潜め、速球は90マイル(約145キロ)前後。限界がささやかれるようになり、ボールを動かすスタイルへの移行を目指した。
先発の座を確約されていなかった今季は、違和感を覚えていた膝のプロテクターを年間通して着用することを決断。昨年から習得を目指した新球カットボールに磨きがかかり、30試合に先発して9勝12敗、防御率3.91。打線の援護に恵まれず勝ち星が伸びなかったが、チェンジアップとツーシームを織り交ぜ、緩急をつけて打たせて取る投球に進歩が見られた。ロスチャイルド投手コーチは「新しいスタイルにうまく適応した。カットボールを習得するのには時間がかかるが、新たな握りに手応えをつかんだのが大きかった」と評価。サバシアにとっては自らの“弱さ”をさらけ出したことで、過去の自分を吹っ切るきっかけになったのかもしれない。
田中将大投手が3年目でエース級の活躍をしたヤンキースにおいて、サバシアは絶対的な存在ではなくなった。膝に故障を抱え、アルコール依存症との戦いも続くことを考えれば、選手生命を懸けた1年ごとの勝負となる。契約は来季で切れるが、現役続行の意欲は失っていない。今後、野球を続けるモチベーションは何なのか。ベテランは「勝つために投げること。自分にできるのはそれだけ。健康を保てれば結果はついてくる」と静かに答えた。シンプルだが、彼の言葉には重みがある。野球においても、人生においても転機を迎えたサバシアの再起を目指す戦いはこれからも続いていく。