自身の存在価値を再認識させた山口蛍 苦境からの浮上へ、踏み出した大きな一歩
守備面だけでなく攻撃面でも勝利に貢献
守備面だけでなく攻撃面でもこれまで以上に精力的にこなしていた山口 【Getty Images】
後半に入ると、山口の攻撃意識はより鮮明になった。実はC大阪でも8月半ば以降、「自分がチームを動かさなければいけない」という意識を強めており、今回の最終予選2連戦直前のツエーゲン金沢戦(8月21日/3−1)では、高い位置を取って攻めに絡んでいた。タイ戦の後半はその相乗効果が出たのか、複数のチャンスを演出していた。同17分の本田圭佑の決定機につながった酒井宏への正確なサイドチェンジ、原口がシュートに持ち込む形に至った同23分のボール奪取からの縦パス供給などは、山口らしい攻撃センスが光った場面だった。これは特筆すべき部分だろう。
「サイドと中は使い分けていましたが、今日はサイドからの崩しが多くできていたので、基本的にはサイドでしたけれど、サイドばかりでもダメだと思っていたので、タイミングを見て中に入れる形も意識しました。途中から『ちょっと前に行ってくれ』という監督の指示もあって、コミュニケーションを取りながらうまくやったつもりです。今日はある程度、自分の仕事ができたかなと思います」
2−0の勝利という最低限の結果を手に入れた後、山口は安堵(あんど)の表情を浮かべつつ、「ほんの少しだと思いますけれど、一歩を踏み出せたのかな」と胸の中の本音を吐露した。
芽生え始めたリーダーとしての自覚
セレッソに復帰してから、山口に芽生えたのはリーダーとしての自覚だ 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
「自分の場合は(代表戦で)テストされているようなものだと思っています。そこで結果が出なければ、もう呼ばれないと思う。今回、久しぶりにここに来て、レベルの高さを感じたし、あらためてもっと厳しくやっていかないといけないと思いました」と本人もさらなる危機感を抱いた様子だ。
4カ月前まで同じクラブでブンデス2部残留争いをしていた清武弘嗣が新天地・セビージャでUEFAチャンピオンズリーグに参戦し、マルセイユに赴いた酒井宏もフィジカル色の非常に強いフランスリーグ1部で試合に出場しているという現実を目の当たりにしたのだから、彼自身も当然、考えるところはあっただろう。仲間たちからの刺激を受け、クラブでの苦境から貪欲に這い上がっていくしか、今の山口蛍が代表に定着し、中盤のキーマンとして輝き続けるすべはない。
「もっと意識を変えてやれば、自分自身は全然変わってくると思います。J2の方が絶対にフィジカル的にはきついので、その中でやっていくのもマイナスにはならないと思います。ここからC大阪が勝ち切っていくことができれば、チームとしても、プレーヤーとしても、もう一段階、上に行けるという気がしています。
(C大阪に)復帰してからの自分は、周りに気を使っている部分がたくさんあった。もっと自分のプレーを出していいんじゃないかと考え始めています。『俺がいくから、後ろもついて来いよ』というくらいの気持ちでやっていかなくてはいけないと今は強く思っています」
柿谷曜一朗に加え、杉本健勇も負傷離脱してしまった今、山口はC大阪でリーダーとしての自覚を強く持ち、それを押し出そうとしている。そこはドイツへ移籍する前とは明確に異なる部分である。その意欲を代表に持ち込み、今後の最終予選で彼が長谷部に匹敵するほどの影響力と統率力を示してくれるようになれば、まさに理想的だ。タイ戦を契機に、劇的な変貌を遂げてくれることを期待したい。