バド高橋・松友 独占インタビュー=金メダルペアが明かす強さの秘密

平野貴也

「頑張れば何かが起こる」伝わったらうれしい

東京五輪への挑戦こそ明言しないものの、まだ手にしていない世界選手権のタイトル獲得へ意欲を示してくれた 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

――ところで、2人にとっては初めての五輪でしたが、どんなことを感じましたか?

高橋 私は人見知りをしないので、見たいなと思う競技の日本人選手に会ったら「試合、いつからですか?」と話しかけていました。バスケットボールが見たくて、渡嘉敷来夢さんに会って予定を聞いたんですけど、バドミントンと日程が重なってしまって結局、見られませんでした……。でも、陸上の男子400メートルリレーは見れました! すごく感動して、めちゃくちゃ騒いじゃいました。

――高橋選手は、逆転勝ちした決勝戦の後に「レスリングの伊調馨さんが大逆転した試合を見て……」という話もしていましたよね?

高橋 いろいろなことにチャレンジしたくて、例えば引退後にバドミントンだけの世界で働くことというのは、あまり考えられないです。だから、ほかの競技の人と話すのは好きです。友だちになるほどではなくても、知らないことを知ることができます。ほかの競技の選手でも私たちのことを知ってくれている人がいて、バドミントンも有名になって来たかなと思う瞬間もあってうれしかったです(笑)。

松友 ほかの大会だと、会場にいるのは現地のお客さんがほとんどです。大々的に各国のご家族や応援団が来るということは、あまりありません。五輪は、本当にそこが面白いなと思いました。別競技の関係者の方も自国の選手を応援しに来ていて、日本も含めて、どの国の選手にも応援に来ている人がいるって、すごいなと思いました。

――では、少し大会の話から離れます。前回のロンドン五輪は、代表権争いに敗れて出場できませんでした。そこからリオまでは、どんな4年間でしたか?

松友 ロンドン五輪の前から少しずつ主要な国際大会でベスト8やベスト4に入れるようになって、結果が出るようになりました。2014年に(年間成績上位8組のみが参加する)スーパーシリーズファイナルを優勝できるくらいに実力がついて、初めて世界ランク1位になりました。でも、そこから自分たちは勝たなければいけない、うまくやらなければいけないという考え方になってしまいました。それで、15年から始まった今回の(世界ランクによる)五輪出場権獲得レースの前半は、勝てない時期が続きました。でも、その時期に「自分たちが今までやってきたことを試合で出して、初めて次(の進歩)がある」と思えるようになって、相手を倒すために自分たちがどうすればいいかを純粋に考えてバドミントンをできるようになりました。勝てなかった時期があって、それでも上を見続けて進んできたから今があるので、本当に頑張ってきて良かったなと思います。今大会も初戦は良くなかったですけど、2回戦からちゃんとできたのは、昨年8月の世界選手権で自分たちの力が出せなくて負けたという経験があったから、気持ちを切り替えて臨めたのだと思います。

高橋 世界ランク1位になった頃は、世界選手権のベスト16で負けて、プレッシャーがどんどん大きくなってしまいました。松友がケガをして試合に出られない時期もあって、結果を出さなくちゃいけないのに……とすごく追い込まれて、どうしたらいいか分からなくなりました。その後、(15年11月の)中国オープンで、準優勝をした時から少しずつ、こういうふうにやっていけばいいんだなと思えて。レースの前半は苦しかったけど、いい経験かなと思います。

――9月には、東京でヨネックスジャパンオープンがあり、今回の活躍で「タカ・マツ」ペアに興味を持った方や、バドミントンを見てみたいという方にプレーを見てもらえる機会があります。競技の知名度アップや普及に貢献したいという気持ちはありますか?

松友 自分たちの決勝戦を見て面白いなと思ってくれた方がたくさんいて、それが普及につながればうれしいですけど、実際のところは、そういうことを考えて何かをしようと思うわけではなくて、どうやったらもっとうまくなれるのか、強くなれるのかということばかり考えています(笑)。

高橋 私も、自分たちがうまくなって、いつも1番でいたいという気持ちだけです。それが、バトミントンが広まるきっかけになってくれればいいな、とは思いますけど。ただ、今回の決勝戦に関して言えば、バトミントンに限らないところで「苦しくなったからって諦めなくたっていい、頑張れば何かが起こるかもしれない」ということが、伝わったのであれば、人として本当にうれしいなと思っているところはあります。アスリートの世界だけの話じゃなくて、どんな人のどんな場面にも言えることだと思うので。

――それを伝えるために、わざとあの展開に持ち込むということは……

高橋・松友 絶対、できません(笑)!

世界選手権でも結果を残したい

――試合後、2020年東京五輪については明言しませんでしたが、今後はどのような気持ちで進んでいきたいですか?

高橋 今回は五輪初出場だからできたことも多かったと思います。もし東京五輪に出場したら、もっとすごいプレッシャーがかかるのかなと思います。それに、試合後にも言いましたけど、正直、本当に歳(26歳)も歳なので(笑)。いつ、ケガをするかも分からないですし、今の動きを4年後まで持続できるかと言われたら、今ほどバンバンとスマッシュを打てないだろうと思います。だから、2020年については、今すぐには答えられないです。今後は、まず一番に世界選手権です。まだ結果を残せていない大会(最高位はベスト16)なので、そこで金メダルを取って、もう一度、日の丸が一番高いところに上がるのを見たいです。それが、東京(五輪)につながっていればいいんじゃないかなという気持ちです。

松友 国際大会でも、君が代が流れる大会は限られています。五輪か、世界選手権か、アジア大会か、団体戦しかないので、すごく貴重な経験ができたと思います。またもう1回、そういう場面ができたらいいなと思いますね。特に、世界選手権はベスト8に入ったこともないので、競技を辞めるまでには、世界選手権でも結果を残したいなと思っています。

――五輪を取ってもまだ目指せる大会が残っているんですね。

高橋 五輪、スーパーシリーズファイナル、全英オープンのタイトルは取れたので、まだ取っていない世界選手権と、できれば団体戦のユーバー杯(女子の国別対抗戦)や、スディルマン杯(男女混合対抗戦)も取りたいです。中国の林丹選手(北京、ロンドン五輪で男子シングルスを連覇した英雄的選手)がたぶん、制覇していると思います。そこまで並べるかは分かりませんけれど、そういう選手になりたいです。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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