【UFC】雪辱に燃える静かなるマクレガー あえての打撃大戦争に腕を伏す水垣

(c) Zuffa, LLC

マクレガーにとってプライドを懸けた戦い

 思えば、フェザー級チャンピオンであるマクレガーに、今年3月の「UFC 196」で課せられた元々の使命は、当時のライト級チャンピオン、ハファエル・ドス・アンジョスを下し、UFC史上初の2階級王者になることだった。ところが試合の11日前、ドス・アンジョスのトレーニングパートナーが放った1発の蹴りの誤射から、事態は急激に変転していく。突然のドス・アンジョス欠場、急ごしらえの代替カードをディアスが受諾、マクレガーには無理筋と思われたウェルター級での試合の実現と敗戦、「UFC 200」記者会見欠席に伴うマクレガーの引退ツイート騒動、そして「UFC 202」でのウェルター級でのリマッチ実現……。こんな行き当たりばったりの筋書きにこだわることもなかろうにと思われるところ、それでもマクレガーがこの試合にこだわっているのは、前回とまったく同じ条件で勝ち星を取り戻すことで、ケチのつけようのないリベンジを果たしたいということに尽きるだろう。しかし、いささかエゴが強すぎるのではないかと、一抹の不安も残る。

 同じ大会に出場する水垣偉弥はこの試合について、やはり階級差は埋めがたいとみて「ネイトのノックアウト勝ち」と予想する。今回の試合はマクレガーにとって、相手が憎くて戦うわけでもなく、タイトルとも無縁。あえて言えばプライドを懸けた戦いであり、ファイターとしての成長のための通過儀礼なのである。マクレガーは本当に、宣伝文句通りのスーパースターなのだろうか。前回の敗戦は、練習で修正できるような単なるミスにすぎなかったのか。マクレガーはそうした疑念を、勝つことで晴らそうとしている。そんな試合にトラッシュトークはいらないのだ。

ガーブラント、水垣を踏み台扱い

水垣偉弥はコーディ・ガーブラントと対戦する 【Getty Images】

 前述の水垣がT-Mobileアリーナのオクタゴンで拳を合わせるのはバンタム級ランキング8位のコーディ・ガーブラントだ。ただ、同11位にランクされる水垣戦を目前にしながらも、ガーブラントの口をついて出てくるのはバンタム級王者ドミニク・クルーズを強く意識した言葉ばかりである。

「ドミニク・クルーズは最近、オレを気絶させてやると言ったらしい。オレのことなんか知らないというフリをしている場合ではないと、ようやく理解したのだろう。クルーズにその言葉をそのままお返しする。クルーズはオレとの試合でアゴを砕かれ、しばらくの間、ストローで食事をすすることになる」

「オレはバンタム級で最も話題のファイターだ。無敗でノックアウト勝ちを続けている。それに一番カネになるファイターでもある。ドミニクもバカじゃないから、オレが強敵であることを知っているんだ」

 あえて水垣戦について語る言葉も、あたかもクルーズとのタイトル挑戦権獲得のために形式的に必要な手続きであるかのような言いぶりだ。「ミズガキはWEC(ワールド・エクストリーム・ケイジファイティング)からずっとやっているベテランで、今でも危険な相手だ。ミズガキは正面から勝負してくるタイプだから、今回は動き続けるつもりだ。ただ、彼のようなタイプは自分にはおあつらえ向きなんだ。確かにタフな選手だけど、これまでオレのようにパンチができる選手と戦ったことはないだろうからね」

水垣「打撃の展開から逃げるんじゃないぞ」

 他方の水垣はガーブランドについて、「危険なパンチを持った選手。レスリング力もあって侮りがたい」と慎重な見方をしている。年齢(水垣32歳、ガーブランド25歳)も戦績(水垣21勝9敗2分、ガーブランド9勝0敗)も、水垣に比べて青さが目立つガーブランドだが、今が旬の危険な勢いがあり、かなり自信を持っている選手であることは確かだ。しかし、ガーブランドが言う通り、水垣もアメリカのトップの舞台、負けが続けばリリースされてしまう厳しい世界で長年戦い続けてきたベテランなのである。日本人選手の中でも圧倒的なUFCキャリアを持つ水垣に、そのサバイバルの秘訣(ひけつ)について尋ねてみたところ、「秘訣(ひけつ)のようなものは特に分かりません。正直、目の前の試合にとにかく勝つ、という気持ちを大切にしていたら、結果的に綱渡りをするように生き残ってきた気がします」と飾ることなく語っている。

 そして、あえてガーブランドにトラッシュトークを仕掛けてもらえないかと頼んだところ、そういうことは苦手だとしながらも、水垣は「打撃の展開から逃げるんじゃないぞ」と語った。ガーブランドのボクシングの強さは自他共に認めるところだが、水垣はその打撃で「逃げるな」と言っているのである。目の前の試合をとにかく勝つことにかけては、ガーブランドの比ではない経験値を持つ水垣。ガーブランドにとって得意科目である打撃であえて勝負を挑むことで、勝負の本当の怖さを植え付け、相手の心まで折る作戦なのか。それともガーブランドの勢いに抗しがたく、踏み台となってしまうのか……。世代闘争的な意味合いも帯びつつ、火の出るような大打撃戦の予感に満ちた必見の一戦である。

(文:高橋テツヤ)

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