西アフリカ選抜が挑んだ日本ハムOB戦 五輪復帰、普及発展に大きな意義 

阿佐智

着実に根付く西アフリカの活動

西アフリカ選抜と日本ハムOBの集合写真。マスコット・フレップも室蘭までやってきた 【写真提供:ブルキナファソ野球を応援する会】

 この試合を終え、戦績は7敗1分け。いまだ勝ち星は挙げられていない。現役の大学野球部との試合では20点以上の差をつけられたこともあるが、ナインはそれも前向きにとらえている。日本ハムOB戦でも、引退したとはいえ、いまだ130キロを超える球をコーナーに投げ分けるプロの技術を目の当たりにし、選手たちは一様に「勉強になった」と自分たちが目指す高みがどのあたりにあるのかを見つけたようだった。

 プロジェクトの仕掛け人である出合氏もこう言う。

「彼らは負けたからってしょげたりしていませんよ。どんなスコアでも、9回まで試合をやり抜くことだけでも大きな意義があります。現在の彼らの力では勝つことは基本的に無理でしょう。でも、できないことをどうやってできるのかを考えるのが、われわれのすべきことだと思っています」

 この気持ちを西アフリカナインも共有していることは、リーダー格であるラシィナの言葉からもうかがえる。

「西アフリカの野球は始まったところです。これからももっともっと日本の皆さんに応援してほしいです。僕は、これから腕を磨いてNPBを目指します」

 彼を指導したある人物は、野球経験の浅いアフリカからの選手の挑戦に対して決して好意的な見方をしてはいなかった。
 
「NPBなんて無理ですよ。考えてごらんなさいよ、日本の野球部で小さい時から野球漬けでやっとなれるプロ野球選手に、アフリカからやってきてちょっと練習したからってなれるわけないでしょう」

 しかし、ラシィナはこの厳しい声に対しても、今年、公式戦のホームランという形で答えを出している。

 出合氏によれば、今回のチームのレベルは「高校野球の予選で何回か勝ち進める程度」らしい。ゲームの最後を締めた木田優夫・日本ハム球団GM補佐も「レベルはかなり高い」と評価。日本人による西アフリカでの草の根の活動は確実に根付いているのだ。

西アフリカ選手にも五輪復帰はいいニュース

 先発投手を務めた建山は当初、この試合の意義をあまり感じられなかったと言うが、「練習などで準備をしていく中で、この活動の精神を感じました。今は、『機会をいただいてありがとうございます』という気持ちです」と、気持ちの変化を語った。
 
 東京五輪で野球の実施競技復帰が当確と言われてる現状において、プロ関係者の普及に対する意識が若干なりとも変わったとすれば、この試合の意義は大きいだろう。西アフリカの選手にとっても、五輪復帰はうれしいニュースであることは間違いなく、野球で五輪に出場できれば、自分たちに貼られた「貧しいアフリカ」というレッテルを払拭でき、母国の評価も変わると考えている。そんな彼らにとって、プロOBとの試合は自分たちの目指すところを示してくれたに違いない。

 出合氏は言う。
 
「途上国における人材育成によって先進国と途上国が対等な関係になれば、社会が変わります。野球はそのきっかけなんです」

 西アフリカ選抜の戦いは舞台を移してまだまだ続く。それ自体が目的ではないのだろうが、彼らが待望の勝ち星を挙げた時、また、何かが変わっていくだろう。 

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著者プロフィール

世界180カ国を巡ったライター。野球も世界15カ国で取材。その豊富な経験を生かして『ベースボールマガジン』、『週刊ベースボール』(以上ベースボールマガジン社)、『読む野球』(主婦の友社)などに寄稿している。

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