土居美咲、全英16強の陰に新コーチあり トップ10も視野、“挑戦の継続”で成長

内田暁

格上に揉まれたからこそ今がある

昨年の全仏オープンでは当時世界7位のアナ・イバノビッチ(右)をフルセットまで追い詰めた 【写真:アフロ】

“心地よい領域”を抜け出し、欧州のツアー大会に予選から挑戦したことは、結果として吉と出る。昨年5月のローマ大会では、予選突破し本選へ。続くニュルンベルグでは、予選を勝ち上がり本戦でもベスト8へ。そして全仏オープンでは初戦を快勝し、2回戦では敗れはしたが、当時世界7位のアナ・イバノビッチ(セルビア)相手にフルセットの大激戦を演じてみせた。

「結果的にうまくいったから、今、言えることなんですが……」

 そう前置きをした上で、土居は1年前の挑戦の日々を顧みる。

「あそこで上の選手と揉まれたからこそ、今があると思います」

 戦うステージを上げ、自らの実力を高めたことは、彼女に貴重な経験と自信をもたらした。だが同時に敗戦が残す爪跡も、より深く、より痛みを伴うものになっていく。昨年8月のスタンフォード大会では、世界7位だったアグニエシュカ・ラドワンスカ(ポーランド)相手に6−1、2−0とリードしながら、12ゲーム連取を許し逆転で敗れた。同月の全米オープンでは、当時世界12位のベリンダ・ベンチッチ(スイス)から3本のマッチポイントを奪うも、最後の1本を決めきれない。獲物を口にくわえながらも飲み込む直前で落とすような悔しさを、彼女は幾度も味わってきた。それでもベンチッチ戦の後、彼女は大きな目に涙をいっぱいに溜めながら、「次に勝てるというのは確信に変わっている。継続して、何回も何回もチャレンジしたいです」と、必死に前を向こうとしていた。

トップ10へ「だいぶチャンスはある」

“心地よい領域”からの脱却、敗戦の痛みと、挑戦の継続――それら重ねた経験は昨年10月に、ツアー初優勝という形で結実する。

 一つの確たる成果を残した後、彼女は強気の仮面で覆い隠してきた本音を、少しばかり漏らすように述懐した。

「全然、ポジティブになれなかった時もありましたよ。テニス選手は、勝ち続けるなんてことはありえないじゃないですか。毎週大会があって、勝者は1人ですから。今週優勝しても、翌週負けることは普通にある。気持ちを保つのが難しいスポーツだけれど、それでも、前を見て戦い続けるのがキーになると思う。その意味では、クリスは気持ちが下がりそうな所を修正してくれたので助かっています」

 今回のウィンブルドン大会中も、彼女は前を見て戦い続けた。多くの新たな経験を積んだ今大会を振り返り、土居は落ち着き払った口調で言う。

「3試合ともに自分の良いテニスができたことは、すごく今後につながる。特に2回戦では、先週の大会で負けたシード選手に勝ったので、実りある大会になったなと思います」

 その彼女が言う「今後」とは、どこなのか? 果たして今の彼女の視野には、トップ20や10も見えているのか――。問われた土居は、ことさら気色ばむでもなく、さらりと自然に口にした。

「そうですね。だいぶチャンスはあると思います」

 日々の積み重ねの上に今があるからこそ、彼女は、この先があることを疑わない。ウィンブルドン・ベスト16も、上ってきた階段の中間地点である。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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