五輪で勝つために、眞鍋監督が下した決断 “日本らしいコンビバレー”に必要なこと

田中夕子

セッターがどれだけ効果的にMBを使えるか

セッターが荒木(右)らミドルブロッカーをどれだけ効果的に使うことができるかがポイントとなる 【写真:アフロスポーツ】

 これは日本にとって長年の課題であり、打破するための1つの策として13年、14年にはMBのポジションに迫田や、長岡などウイングスパイカーの選手を入れ、複数の場所からの同時攻撃展開を試みた。しかし、ディフェンス面の脆さをつかれ、世界選手権では7位に終わった。15年のW杯では大竹、山口舞、島村春世とMBを本職とする選手が入る、通常の形に戻した。そしてOQTからは、ロンドン五輪では主将を務めた荒木絵里香が復帰。

「攻撃の幅は他のミドルに負けない」と自負する島村や、同じ岡山シーガルズでプレーする宮下が「一番安心して使うことができる」という山口は、セッターの隣に入ることが多く、前衛の攻撃が2枚時には積極的に攻撃に入る。だが、前衛の攻撃が3枚でA、Bクイックなどセッターの正面からのトスを打つ回数が多くなる荒木、大竹はもともと高いトスを打ち分ける能力も持った選手で、トスが低くなれば持ち味は生かされない。

 ワールドグランプリではメインセッターに入る機会が多かった田代佳奈美は「早く決めようと上げ急いでしまい、ボールを出すタイミングが遅れ、トスが低くなってしまった」と言うように、使おうという意識はあっても、打ち切れなかったり、相手ブロックに囲まれ、どうしようもない状況で打たなければならないケースも増えた。

 1本で切れなければ、セッターの中には「ミドルを使うのが怖い」という心理が生まれ、さらに上げづらくなり、サイドへ攻撃が偏ったところをブロックで止められる。OQTでも見られた悪循環は、ワールドグランプリでも何度か見られた。

 ワールドグランプリでも対戦したセルビアやロシアは高さを誇るチームであり、特にMBの高さは日本で体感できるものではなく、国内での試合以上に「パスが返らないとミドルは使えない」という固定概念に縛られる。12名に選出された山口、荒木、島村、3名のMBをセッターの宮下、田代がどれだけ効果的に使えるか。日本が勝つために、不可欠な要素になるはずだ。

宮下「自信を持って、コートに立てる準備をしたい」

鍵を握る宮下は「自信を持って、コートに立てる準備をしたい」と意気込みを語った 【坂本清】

 中国やブラジルは、ワールドグランプリを五輪の前哨戦と位置づけ、現状のベストに近いメンバー編成で臨んだ。

 本来ならば日本も、五輪を見据え、メンバーを固定して、最終予選で露呈したウイングスパイカーとリベロの間を狙われたサーブへの対応や、前述のミドルの攻撃打数の向上、パスヒッターの組み合わせなど、課題を克服するためのチャレンジができたかもしれない。

 だが、その機会を逸しても最後までメンバー争いを繰り広げた結果、選ばれた12名は、紛れもなく日本が「勝つためのメンバー」であり、ここから前へ進むしかない。

 宮下が言った。

「残ったメンバーは、入れなかったメンバーの思いを最後まで忘れたらいけないし、そのメンバーのためにも、自信を持って、コートに立てる準備をこれからしたいと思います」

 選ばれた選手は、選ばれなかった選手たちの悔しさや無念さも背負い、代表としての誇りを持って五輪の舞台に立つ。すべてを懸けて臨む戦いが、間もなく、始まる。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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