阪神・福留は外様選手らしい外様選手 静かに迫る日米通算2000安打

山田隆道

ヒーローインタビューでも素っ気なく…

ファンやマスコミ向けに派手なパフォーマンスはしないが、主軸としてチームを引っ張る福留 【写真は共同】

 しかし、一方の福留は自ら進んでマスコミやファンを盛り上げようとはしない。試合で結果を残すことに集中する、いわゆる職人肌で、パフォーマンスとは無縁の選手だ。

 また、彼はインタビュー取材が非常に難しいことでも知られている。普段から懇意にしている記者が舞台裏などで取材すれば、雄弁に対応するらしいのだが、たとえば球場でのヒーローインタビューなど、つまりファンから見える公の場所でのサービス要素を含んだ質疑応答になると、途端に口数が少なくなる。

 試合終了後、本日のヒーローである福留がお立ち台に上り、アナウンサーからインタビューを受けるものの、繰り出される質問にことごとく素っ気ないコメントを返して、球場全体に微妙な空気が漂ってしまう、そんなシーンを実際に目撃したファンも多いことだろう。インタビュアーから最後に「ファンにメッセージをお願いします!」と力強く促されても、だいたい抑揚のない小さな声で「がんばります」と言うだけだ。

 福留にしてみれば、ヒーローインタビュー特有の万人にわかりやすいライトな質問がプロ意識に響かないのかもしれない。そして、そういうインタビューごとの特性を考慮したうえで、あえてファンサービスを心がけるタイプでもないのだろう。私の知人の在阪マスコミ関係者も、みんな「福留のインタビューは気を遣う」と口をそろえている。

 もっとも、先述の下柳のケースのように、そんな福留をいじれる存在がいればいいのだが、今の阪神にはそれができるほど彼と同格か、あるいは格上の選手はいない。だから、福留は誰かと一緒にお立ち台に並んでも、ピリピリした緊張感に拍車がかかるだけだ。

 そう考えると、福留はやはり異質だ。ある意味、他の選手たちと一線を画した「外様選手らしい外様選手」と言える。これまでの阪神では、生え抜きさながらの存在感を放つ「外様選手らしくない外様選手」が多かっただけに、この福留は珍しい存在だろう。

金本阪神にとっては欠かせない存在

 中日時代はそんな福留について個人主義だと指摘する声もあったが、阪神入団後の福留は決してそういうわけでもない。キャンプ中から若手野手に積極的にアドバイスをする姿が目立っており、投手陣にも打者の目線から意見することも多いという。また、チームメイトが観客から心ない罵声を浴びたとき、それに福留が応戦したこともあった。現在の福留はマスコミやファンに向けてチームを背負うような発言をすることは少ないものの、実際は経験豊富なベテランとして、超変革を目指す金本阪神を力強く支えているのだ。

 そんな福留を見ていると、なんとなく巨人時代の落合博満を重ねてしまう。あのころの落合も今の福留と同じく全盛期より衰えてはいたものの、ここ一番の場面ではさすがの打棒を披露し、強烈な存在感を発揮していた。ご存じの通り、彼もまたマスコミやファンに向けたサービスコメントをするタイプではなく、一部からは個人主義だと批判されることもあったが、実際はチームバッティングを誰よりも重視し、後輩にアドバイスを送ることも多かったという。なにより、福留にとって落合は中日時代に仕えた監督である。

 いずれにせよ、これまで盛り上げ上手の外様選手が多かった阪神において、この福留のような緊張感のあるタイプは実に新鮮だ。少々扱いが難しい面はあるものの、そんな福留の個性にこそトップアスリートの色気を感じる阪神ファンも少なくないだろう。大記録へのカウンダウンで甲子園がお祭り騒ぎになるのもいいが、淡々と節目に歩み寄っていくのもたまには味わい深い。そのうえで、フィニッシュとなる2000本目の安打をかつての落合のようにホームランで決めたら、さぞかし絵になることだろう。

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著者プロフィール

作家。1976年大阪生まれ。早稲田大学卒業。「虎がにじんだ夕暮れ」「神童チェリー」などの小説を発表するほか、大の野球ファン(特に阪神)が高じて「阪神タイガース暗黒のダメ虎史」「プロ野球むしかえしニュース」などの野球関連本も多数上梓。現在、文学金魚で長編小説「家を看取る日」、日刊ゲンダイで野球コラム「対岸のヤジ」、東京スポーツ新聞で「悪魔の添削」を連載中。京都造形芸術大学文芸表現学科、東京Kip学伸(現代文・小論文クラス)で教鞭も執っている。

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