前田健太、打球直撃にもめげず…今後を期待させたNYデビュー戦

杉浦大介

玄人好みも慣れられたら厳しい…

打球が直撃して「逆にアドレナリンが出た」という前田。打者との駆け引きで、丁寧な投球を披露した 【Getty Images】

 メジャーリーグとは、この日に対戦したシンダーガードのような怪物的なエースが幅をきかせる世界である。28日は早々と退場処分になったが、23歳の右腕は198センチ、109キロという恵まれた体躯から、100マイル(160キロ)前後の速球、90マイル(144キロ)のスライダー、チェンジアップといった漫画のような球を堂々と投げ込んでくる。

 一方、前田にはシンダーガードのような豪球、あるいは田中将大(ヤンキース)のスプリッター、ダルビッシュ有(レンジャーズ)のスライダーのような支配的な武器はない。相手打者をかわしていく投球には玄人好みの見応えがあるものの、“慣れられたら厳しいのではないか”という不安は消えない。

 案の定、今季ここまでも序盤は好投するものの、打線の3回り目の対戦では被打率3割4分9厘と苦しんで来た。そんな背景、数字を見れば、メジャーでの長期の活躍に少なからずの懸念を感じずにはいられない。

自分を過大評価しない丁寧な投球

 もっとも、その一方で、前田本人は“自分は対戦を重ねた方がいい投球ができる”という自信も持っているのだという。“何回か重ねていけば相手の特徴を頭に入れ、駆け引きができる”というのがその根拠。慣れをアドバンテージにできるのは打者だけではない。そして実際に今夜、メッツとの今季2度目の対戦では見事なパフォーマンスを披露してくれた。

「バッターの苦手なコースだったり、前回投げた時に打ち取れたボールを頭に入れながら投げたし、打たれたボールも頭に入れながら投げていた。それがいい結果につながったんじゃないかと思います」

 言葉の節々に聡明さを感じさせる前田だけに、試合後のコメントも口先だけのものには思えなかった。打者を圧倒する球威がない代わりに、可能な限り慎重に球種を選び、低めにコントロールしている。自分の力を決して過大評価せず、丁寧な投球でサバイバルを続けている。 

「(勝てない間は)結果も内容も伴ってなかったので、少し苦しい思いもしました。しかしそれは覚悟の上でこっちにきたので、しっかりと受け入れて、いろいろと工夫しながらやっていくしかない。久しぶりに打たれる試合が続いた。日本ではこういう結果になるのは少なかったので、ピッチングについて考えることができた時間かなとは思います」

ミニスランプ脱出で今後に期待

 もちろんメジャーでの旅路はまだ始まったばかり。これから先も、この場所で仕事を続けようと思えば、これまで以上の工夫と思考が必要になってくるだろう。再び厳しい時間も経験するはずだが、敵地の尋常ではない雰囲気の中で、手を痛めた後も慌てず、ついにミニスランプを脱した今夜の投球内容は、今後を改めて期待させるのに十分だった。

 ドジャースの日本人ルーキーは、エースというより“サバイバー”。うまさとハートの強さを武器に、新天地で生き残る術を模索し続ける。考えながら進むメジャーでの道は、前田とそのファンにとって、スリリングで、そしてたまらなく楽しみなものになっていきそうである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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