ダニエル太郎、全仏で感じた悔しさの訳 視界に入ったトップ選手からの勝利

内田暁

「まだまだ」の言葉の深層とは?

かつては視界の外にいたトップ選手からの勝利が、今は想像できるところまできた。しかし、ダニエルは「まだまだ、遠い道」と言う 【写真:ロイター/アフロ】

 しかし、2回戦のワウリンカ戦では、前年優勝者の強烈なサーブを攻略し切れず、セットを奪う幾つかの機を逃す。第1セットのタイブレークでは、2本のセットポイントを生かせなかった。第3セットでは先にブレークするも、第8ゲームを5度のデュースの末にブレークされ、最後は“世界最強”と称されるワウリンカのバックハンドの強打に屈する。外野から見れば、「あの1本が取れていれば」と悔やむ場面が幾度かあったが、ダニエル本人が抱く意識は、外野のそれとはかなり異なっていた。

「第3セットまで、良いリターンができていなかった。いくら第1セットを取れても、勝つのは難しいと思う」

「体力的に負けていて、第3セットでは僕の息も切れていた」

 具体的な反省点を連ねながら、彼は言う。

「まだまだかな〜という感じです」

 まだまだ……その言葉の深層とは、かつては視界の外にいたトップ選手からの勝利が、今は想像できるところまできたという手応えだろう。約2年前、初のグランドスラムでラオニッチと対戦した時と、今の自分を照らし合わせて、彼は言う。

「あの時はレベルが遠過ぎた。でも今回は、ベースラインからでも良いレベルでプレーできていた。もっと全て100パーセント完璧にできたら、どこまで行けたのかなと考えてしまう」

 焦ることも、夢を語ることも好まぬ彼が、悔しさを隠せぬ理由がそこにあった。

 トッププレーヤーと伍して戦えるに到るまでを、「まだまだ、遠い道です」とダニエルは言う。
 焦らず、しかし確実に――その遠い道を、彼は進む。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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