ジョコビッチに迫る偉業達成の時 初出場から11年目の全仏戴冠なるか

内田暁

立ちはだかる“キング・オブ・クレー”の壁

14年全仏オープンで準優勝に終わったジョコビッチ(左)と、優勝トロフィーを手にするナダル。目前まで迫った悲願達成は、幾度となく赤土の王者に阻まれてきた 【写真:ロイター/アフロ】

 そして忘れてはならないのは、赤土には、このコートで絶対的な強さを見せ君臨し続けてきた、“キング・オブ・クレー”の称号を持つ男がいる。

 それが、ラファエル・ナダルである。

 先述したように、ジョコビッチは06年の初対戦以降、全仏でナダルに6連敗を喫していた。なお、ジョコビッチがキャリア最高のスタートを切ったのが11年であり、この年の彼はマドリードとローマのクレー2大会連続で、決勝でナダルを撃破。シーズン負けなしで全仏を迎え、そのままローランギャロスも制するかに思われた。ところが準決勝でフェデラーに敗れ、ナダルの待つ決勝に辿り着けなかった。

「ラファ(ナダル)に、最高の誕生日プレゼントができたんじゃないかな?」

 その日がナダルの誕生日だったこともあり、フェデラーが口にしたこのジョークが、世間を包む“ジョコビッチがナダルを全仏で破る日”の予感を象徴していた。

 こののち、ジョコビッチは2012年と2014年に全仏の決勝でナダルと対戦したが、そのいずれも、相手のマッチポイントでダブルフォールトを犯し敗れている。全仏のタイトルを懸けナダルと戦うことは、鋼の精神力を誇るジョコビッチをしても、手元が狂うほどのプレッシャーを覚える状況なのだろう。

 そのジョコビッチがついにローランギャロスでナダルを破ったのが、昨年のことである。ナダルがランキングを落としていたため準々決勝で実現した一戦で、ジョコビッチは、危機迫る集中力でナダルに挑み、そしてストレートで破った。ただ「このナダル戦にピークを合わせ過ぎた」というのが、ジョコビッチに近い人たちの見方である。準決勝では、アンディ・マリー(イギリス)をなんとかフルセットで振り切るも、決勝戦では当時世界ランキング9位のスタン・ワウリンカ(スイス)に敗れ、またも頂点にはわずかに届かなかった。

 これと似た現象は、今年のローマ・マスターズでも起きている。ジョコビッチは準々決勝のナダル戦で圧巻のパフォーマンスを見せ勝利したが、錦織圭(日清食品)と対戦した準決勝ではフルセットの大接戦。なんとか死闘を切り抜けたものの、決勝では疲労の色が明らかに残り、ストレートでマリーに敗れたのだ。

 なおナダルは現在世界5位のため、今年の全仏でも、両者は準々決勝で当たる可能性がある。ジョコビッチの初戴冠には、少しばかりのドロー運も必要かもしれない。

キャリア・グランドスラムへ、機は熟した

 全仏優勝を果たすべく、3年ぶりにマドリード・オープン(マスターズ)にも出たジョコビッチのクレーコートシーズンは、モンテカルロでまさかの初戦敗退(1回戦免除の2回戦)を喫した後、マドリードで優勝。そしてローマでは準優勝。

 本人の言葉によれば「多くの試合をクレーでこなし、良いプレーもできた。自分が望んでいたものを得ることができた」2大会であった。ちなみにこの2大会でジョコビッチと決勝を戦ったのは、いずれもマリー。以前は赤土を「最も勝つのが難しいサーフェスだと思っていた」という世界2位の実力者も、今や、全仏の優勝候補なのは間違いない。

 かつてナダルが「僕やロジャーの地位を脅かす存在」として恐れた少年は、その慧眼(けいがん)が確かであることを証明するかのように世界1位に、そしてテニス史上で最も優れたチャンピオンの一人に数えられるまでになった。

 ただナダルやフェデラーにあってジョコビッチに無いのが、四大大会全てを制した者のみが得られる“キャリア・グランドスラマー”の称号。とはいえ、ナダルは達成までに計9つのグランドスラムタイトルを要し、フェデラーも14回目にして、ついにグランドスラマーとなった。

 ジョコビッチが、これまでに得てきたグランドスラムタイトル数は11。機は熟した感はある。

 なお、今年の全仏オープン開幕日は5月22日――。ノバク・ジョコビッチの、29回目の誕生日である。

2/2ページ

著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント