元捕手右腕ジャンセンが前田の命運握る 適応力の高さでMLB屈指の守護神に

菊地慶剛

転向から1年足らずでメジャーデビュー

09年のWBCでは捕手として出場したジャンセン(右)。左は現ソフトバンクのバンデンハーク 【Getty Images】

 実は数年前になるが、ジャンセンの投手転向を決めたドジャースの育成部長(当時)だったディジョン・ワトソン氏と話をしたことがある。その時に聞かせてもらった裏話によると、育成担当者は常に各選手がメジャーに到達するまでに何が必要かを考えているのだという。ジャンセンの場合もマイナー通算で2割2分9厘に留まった打撃の将来性に期待するよりも、当時からチーム内屈指の存在だった強肩を生かした投手転向の方が、よりメジャーに送り出せる可能性が高いと考えた上での結論だったという。

 そしてドジャースの判断は間違っていなかった。09年の7月29日に1Aのチームに投手として登録されると、わずか1年足らずの翌10年の7月24日にメジャーデビューを飾っているのだ。もちろんドジャースの先見の明もあってのことだが、右も左もわからない状態から投手を始めながらも対応していったジャンセンの順応力の高さを忘れてはならない。

「初めてブルペンで投げた時からまったく違和感を抱かなかった。コーチから感想を聞かれ、『何も感じない』と答えたぐらいだった。今もそうなんだけど、無理なく自然に投げ続けているだけなんだ」

大きな故障もなく「毎日学んでいる状態」

 メジャー昇格以降も160キロに迫る速球を武器に圧倒的な投球を披露。そして前述通り12年にクローザーに抜擢され、昨季まで通算142セーブとメジャー屈指のクローザーとして認知されているようになった。その一方で投手としての経験が浅い分、右肩の炎症など小さな故障を経験しているものの、トミー・ジョン手術を受けるような大きな故障はまったくしていない。本人の説明通り、無理な投げ方はしていない証拠だろう。

「どの投手もそうだと思うけど、自分の場合は特に投手として毎日学んでいる状態。試合ごと、打者ごと、場面ごとに投げる状況は常に違う。そこで経験できることが確実に投手として成長させてくれている。その中でどうやって投げていくのかを理解していったんだ」

 まだ投手を始めて8年目。その分伸びしろも相当に残っているはずだし、28歳(今年9月で29歳)という年齢を考慮しても、投手としてのピークを迎えていないだろう。これからますます円熟味を加えていくことになるのだろう。

 最後にちょっとだけ意地悪な質問をぶつけてみた。スイッチヒッターとして打者への未練はないのだろうか。

「未練なんてまったくないよ。あの時に下した決断を良かったと思っているし、ピッチャーへの転向を進言してくれたチームに感謝しているよ」

 ジャンセンは屈託のない笑顔を見せてくれた。

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著者プロフィール

栃木県出身。某業界紙記者を経て1993年に米国へ移りフリーライター活動を開始。95年に野茂英雄氏がドジャース入りをしたことを契機に本格的にスポーツライターの道を歩む。これまでスポーツ紙や通信社の通信員を務め、MLBをはじめNFL、NBA、NHL、MLS、PGA、ウィンタースポーツ等様々な競技を取材する。フルマラソン完走3回の経験を持ち、時折アスリートの自主トレに参加しトレーニングに励む。モットーは「歌って走れるスポーツライター」。Twitter(http://twitter.com/joshkikuchi)も随時更新中。

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