ローマ史上最高のカピターノ「トッティ」 最後に迫られた重大な決断
24歳で名実ともにローマのシンボルへ
カペッロ監督の下で戦った00−01シーズンは、唯一のスクデット獲得シーズンとなった 【写真:ロイター/アフロ】
ガブリエル・バティストゥータ、ヴィンチェンツォ・モンテッラ、ワルテル・サムエル、カフー、中田英寿といった強力なプレーヤーをそろえたローマは、開幕から安定して首位の座を守り続け、追いすがるユヴェントスを終盤戦の直接対決で突き放して、82−83シーズン以来となる悲願のスクデットを勝ち取った。そのユーヴェとの直接対決で1ゴール1アシストの活躍を見せた中田のパフォーマンスは今なお多くのロマニスタの記憶に残っているが、シーズンを通して主役としてチームを引っ張ったのは、やはりトッティだった。
ローマに生まれ、ローマでプレーすることを夢見て育った少年が、現実となったその夢を背負ってピッチに立ち、10数年間待ち続けたスクデットを熱狂的なサポーターにプレゼントする――。ひとりのロマニスタにとってこれ以上はあり得ない頂点を極めたこの時、トッティはまだ、24歳の若者に過ぎなかった。
名実ともにローマのシンボルとなったトッティは、20代半ばから30代初めにかけてというプレーヤーとしての成熟期を、カペッロ(〜04)、そしてスパレッティ(05−10)という、イタリアを代表する2人の名将の下で過ごすことになる。
重心の低いドリブル、フィジカルコンタクトの強さを生かした圧倒的なキープ力、強烈なミドルシュート、そしてエリア内でのボールさばきの繊細さと正確さ――。シーズンを重ねるにつれて完成度を高めていったそのプレースタイルは、ゴールを決めるだけのFWでもなければ、ラストパスやアシストに喜びを見いだすトップ下のそれでもない。むしろその2つをひとりのプレーヤーの中に凝縮したものだ。
それが最も高いレベルで表現されていたのは、スパレッティ監督時代の4年間に務めた4−2−3−1のセンターFW(CF)としてのプレーだろう。CFとは言いながら、最前線に留まることなく敵の2ライン間、さらには中盤まで下がって多くのボールに触れ、攻撃を組み立て、決定的なアシストを送り、自らもシュートを放つ。そのプレーは、数年後にジョゼップ・グアルディオラ率いるバルセロナにおけるリオネル・メッシのプレーを通して大きな注目を浴びた「ファルソ・ヌエベ(偽9番)」、すなわち「偽のCF」のコンセプトを先取りするものだった。
国際的な評価は得られず……
04年ユーロでは、イタリア早期敗退の「戦犯」とされたトッティ(左) 【Getty Images】
その理由は2つ。ひとつはワールドカップ(W杯)、ユーロ(欧州選手権)という代表チームのビッグトーナメントにおいて、主役級の活躍が一度もできないまま終わったこと。そしてもうひとつは、CLの舞台でヨーロッパの頂点を争うだけの力を持たないローマというクラブにキャリアのすべてを捧げたことだ。
59試合に出場してわずか9得点という数字が示す通り、イタリア代表におけるトッティは、その実力に見合ったパフォーマンスを十分に見せることができずに終わった。とりわけビッグトーナメントでは失望の連続だった。二度のW杯(日韓02年、ドイツ06年)は、いずれもシーズン中のけがから復帰して間もない状況で本調子からはほど遠かった。キャリア初のシーズン20得点を挙げ、優勝候補イタリアのエースとして満を持して乗り込んだユーロ2004は、デンマークとの初戦で相手の度重なる挑発に痺れを切らせてつばを吐きかけるという大失態を犯し、イタリア早期敗退の「戦犯」として後悔と屈辱にまみれる結末となった。
脇役の座にとどまったものの優勝チームの一員として世界の頂点に立った06年ドイツW杯の後、30歳にして代表を引退するという決断を下したのは、代表の一員として担うべき責任と重圧を返上する代わり、キャプテンとして愛するローマにもう一度スクデットの栄光、そしてCLという国際舞台での躍進をもたらしたいという気持ちに駆られてのことだった。
ローマ一途に歩んだ代償
20年以上に渡るローマとトッティのラブストーリーは、どのようなエンディングを迎えるのだろうか…… 【写真:ロイター/アフロ】
そして、どんなストーリーにも終わりはやって来る。おそらくキャリアの中で最も不本意な形でシーズンを終えた今、トッティはクラブから提示された来シーズン末までの契約延長オファーを前にして、このままローマで現役を続行するか、引退するか、それともキャリアの最後を他のどこかで過ごすかという重大な決断を下そうとしている。
その結論がいかなるものであったとしても、フランチェスコ・トッティが、イタリアサッカーの歴史に残る偉大なプレーヤーとして、そしてローマ史上最高の偉大なカピターノとして人々に記憶され、永遠のレジェンドとしてキャリアを終えることに変わりはないはずだ。彼が20年以上に渡るその歩みを通してつづってきたローマとのラブストーリーにそれ以外のエンディングはあり得ないし、またあってはならない。誰もがそう信じ、そして祈っている。