ゴールを“忘れてしまった”大迫勇也 攻撃に迫力を欠くチームをけん引できるか
時計に刻まれた1276分
大迫は今季ここまでわずか1得点と苦しんでいる 【Getty Images】
大迫は今季ここまで、わずかに1得点。歓喜の瞬間は、昨年の8月16日にまでさかのぼらなければならない。そう、今季の開幕戦だ。シュトゥットガルトと臨んだ今シーズン最初のブンデスリーガのアディショナルタイム、あの1点以降、ゴールを“忘れてしまった”のだ。
あれから、1276分が過ぎた。ストライカーにとっては、空虚な時間だ。最前線で歌を忘れたカナリアたちは、「トアロス・シュティーナー」(ゴールレス・ストライカー)との異名を頂戴してしまう。
ケルン指揮官のペーター・シュテーガーは、この25歳のFWを擁護し続ける。「傑出した選手だ」とオーストリア人監督は語る。「彼以上の才能がある選手とは、そうそう一緒に仕事をしたことはない」と大迫のポテンシャルへの評価は高い。日々の練習が、指揮官にそう確信させているのだろう。
大迫を悩ませるファンとの関係
ファンは大迫を「危険な選手ではない」と批判する 【Getty Images】
「ケルンのサポーターにとって、大迫は難しい位置づけの選手だ」と話すのは、地元紙『ケルナー・シュタット・アンツァイガー』のフィリップ・ザギオグルだ。このジャーナリストが「21試合に出場して、1得点1アシスト。これはストライカーにとって、看過できないスタッツだ」との記事を書いたのは、それほど昔のことではない。
ファンが批判する理由はシンプルなものだ。いわく、大迫は危険な選手ではない。「大迫がプレーや判断のミスを2、3度見せた後、ファンの反応は神経質なものになり、スタンドから不満の声が聞こえるようになった」とザギオグルは語る。それがまた、大迫をさらに神経質にさせている。
「ケルンの選手は、ファンに愛されるようになるか、さもなければ手厳しく批判されることになる」。そう話すのは、かつて6年ほどクラブの広報担当も務めていて、現在はテレビ局で働くクリストファー・リンベロプロスだ。「ファンはどんな状況でもケルンの選手たちを支える。だが、そうした保護を受けるには、選手は真剣に戦う姿を見せる必要があるんだ」と、ブンデスリーガを放送する『スカイ』の記者を務める同氏は語る。
こうしたファンとの関係の中で立場を失う選手たちを、リンベロプロスは目撃してきた。「ケビン・ペッツォーニ、クリストファー・ショルヒ、マルビン・マティプといった選手たちも、ファンからの支持を得られなかった」。だが、こうしたファンからの反感を乗り切り、生き延びることができれば、このクラブでヒーローとしてのステータスを得ることができる。「これまでに、ケビン・マッケンナやマティアス・シャーツがそうだったようにね」。この2人の選手とも、決して技術が優れた選手ではなかった。少なくとも、大迫ほどの技術を持っていたわけではないが、大迫にはないものを備えていたのだろう。
大迫は、そうした地元のヒーローとしての地位にはほど遠い場所にいる。これまで、シュテーガー監督はホームのラインエネルギーシュタディオンで、メンバーから大迫を外すことがあった。「私の受けている感触からすると、彼にとってはホームゲームの方が難しさが増すように思う。ファンからの応援が、比較的少ないようだからね」。指揮官がそう話したのは、2月下旬のことだった。その頃、大迫にプレーが許されたのは、アウェーのフィールド上だけでのことだった。そうした状況は、しばらく続いた。
不足していたものが、モチベーションなのか、運なのかは分からない。だが、「調子を落としてしまっているという思いが、随分と重く彼にのしかかっているように思える。ピッチの上で結果を残さなければと焦る思いが、逆に彼のパフォーマンスを不安定なものにさせていた」と、『effzeh.com』でエディターを務めるトーマス・ラインシャイトは話す。さらに、ザギオグル記者は、「ケルンではプレーのキレが重視されるから、FWではアントニー・モデストが起用されるんだ」と説く。