“赤土の王”ナダルはなぜ復活したか 自らの道を突き進み、取り戻した自信

内田暁

勝利を重ね取り戻したフォアハンド

最大の武器であるフォアで攻め、徐々に自信を取り戻していった 【Getty Images】

 まずは、スランプ時のナダルが「どうやって打つのか?」と戸惑う程に神経質になった、フォアハンド。

 モンテカルロの初戦でナダルと対戦したアリアス・ベデネ(イギリス)は、「数年前までナダルのフォアは最大の武器であったが、今はむしろ弱点だ」と試合中に感じ、フォアサイドを狙うよう作戦を変更したのだと言った。相手にそう悟られるほどにフォアに苦しんだナダルだが、それでも初戦を突破すると、以降は勝利を重ねるごとに最大の武器への自信を取り戻していく。

 決勝戦のモンフィス戦で最終セットに入った時、彼は自らに言い聞かせた。

「フォアでもっと攻めていくんだ! もっとコートの中に入り、フォアを打ちこまなくてはいけない。フォアハンドで勝負を掛けるんだ。負けるか勝つかは分からない。だが、ミスしようが成功しようが、やらなくてはいけないんだ!」

 果たして彼は誓いを実践し、最終セットを6−0で圧倒する。

 さらに翌週のバルセロナ・オープン決勝でも、ナダルは錦織にブレークポイントを握られるたび、サーブで崩し、すぐさまフォアでウイナーを奪う気迫のプレーで危機を脱する。手探りで求め続けてきた「自信」は、2週間で積み重ねた10の勝利を通じ、間違いなく彼の左腕に宿っていた。

続くクレーシーズン、高まる期待

 クレーでの2大会連続優勝で、周囲は再び、ナダルにより多くを求め、より高い期待を寄せ始める。

 しかしナダルは、外野の声がいかに性急で、自分の皮膚感覚と異なるかを知っている。
「人々は選手を見ては、不調だとか復活したと言う。もちろん誰しも自分の意見を言う自由はある。でも僕はそんな議論には加わらないよ。僕はより成長するために、自分がやるべきことを毎日やるだけだ。僕は自分を、基本的に冷静な人間だと思っている。特に今週はミスをも冷静に受け止め、ネガティブになることはなかった。自分自身を制御できなくては、試合で戦うことはできない」

 そんな「冷静」な彼がしかし、バルセロナの優勝後ばかりは、しばし感情に身を任せたいと言った。

「今は、この勝利を喜びたいんだ。そしてしばらくしたら、マドリードのことを考えるよ」

 過去4度トロフィーを掲げたマドリードの地が、翌週には7度頂点に立ったローマの街が、そして9度の戴冠を誇るローランギャロスの赤土が、王の帰還を待っている。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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