なでしこを狂わせた勝利への焦り 技術を封じられ、中国のフィジカルに屈す

江橋よしのり

徹底的にマークされた宮間と大儀見

佐々木監督は今大会に向け、得点力向上を目指すトレーニングを重ねたが、改善には至らなかった 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「点を取れなかったのは、今日に限らない。運・不運もあるが、カナダのワールドカップ(W杯)でもオランダ遠征でも、複数得点がなかなか取れなかった。課題として取り組んできたが、結果として取れていない」

 佐々木監督は今大会に向け、得点力向上を目指し、シュートの手前のプレー、さらにその一つ前のプレーの引き出しを増やすためのトレーニングをチームに課した。ワンツーを使ったり、ボランチが斜めに走り込みペナルティーエリア内でボールを受けたり、その試みは確かに見られた。エリア内に入ってくるボールには相手DFも視線を集中させてしまうので、エリア内で一度ボールの軌道を変え、決定的なシュートに結びつけようとする狙いは正しかったはずだ。

 だが実際には、そのようなプレーからの得点は3試合を通じて生まれなかった。

「3試合とも、プレーしていてかなわないと思う相手ではなかったので、サッカーの怖さ、難しさを感じています」

 宮間が試合後、そう言葉にしたとおり、相手に歯が立たないとは感じなかった。昨年のW杯準優勝チームの、持ち前とする技術力が、急に落ちたとも思えない。ただ、オーストラリアや韓国も含め、対戦国はなでしこに対する守備の狙いをはっきりさせていた。ボールの出どころ、特に宮間に対して縦のコースを徹底的に切ってきて、ボールの受け手となる大儀見にもかなり厳しいマークがついていた。攻撃の中心である2人の自由を奪われたことが、ゲーム運びで後手を踏む原因になった。意図する形を作る手前の段階で、なでしこは自信を持っていたはずの技術を封じられていたのだ。

わずかに可能性は残ったが……

 中国のブルーノ・ビニ監督は、その守備の秘訣を「フィジカル」という言葉で説明した。なでしこは、相手にフィジカルで勝つことは求めないにせよ、フィジカルに対抗できる「技術の強さ」「技術の速さ」が、今後は必要になりそうだ。

 この中国戦に敗れたことで、なでしこジャパンは残り2試合を連勝しても勝ち点は7に留まる。すでにオーストラリアが勝ち点9を挙げており、なでしこジャパンに残されたリオ行きの可能性は2位通過のみ。なでしこジャパンが2位に入れるのは、下記の条件がそろった場合のみだ。

(1) 日本が2勝
(2) 中国が2敗し、得失点差で日本を下回る
(3) 北朝鮮がオーストラリアに引き分け以下
(4) 韓国が中国に勝ち、ベトナムに引き分け以下

 わずかでもチャンスが残されている限り、なでしこジャパンは最後まで全力で戦うに違いない。だが、現実にこれらの条件がそろう可能性は、きわめて低い。

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著者プロフィール

ライター、女子サッカー解説者、FIFA女子Players of the year投票ジャーナリスト。主な著作に『世界一のあきらめない心』(小学館)、『サッカーなら、どんな障がいも越えられる』(講談社)、『伝記 人見絹枝』(学研)、シリーズ小説『イナズマイレブン』『猫ピッチャー』(いずれも小学館)など。構成者として『佐々木則夫 なでしこ力』『澤穂希 夢をかなえる。』『安藤梢 KOZUEメソッド』も手がける。

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