2016年のF1テレビ放送が決着も… 高騰する放映権は頭痛の種?

田口浩次

フジテレビにとっても重荷に

高騰を続けるスポーツコンテンツ、F1も例外ではない(写真は2015年のマクラーレン) 【Getty Images】

 さて、次に問題なのが、15年シーズンではCS放送でライブ中継、BSフジで録画放送をしてきたフジテレビにとってのF1コンテンツの価値だ。衛星テレビ広告協議会が公表しているデータによると、フジテレビNEXTの契約数は30万4249回線。その内訳となるケーブルテレビと衛星回線の詳細は非公開となっている。また、CSスカパーのセットなどで組みこまれるフジテレビONE、フジテレビTWOは、それぞれ515万619回線と497万7057回線となっている。このデータを元にすると、フジテレビNEXTは月額1200円(税抜)なので、年間で約44億円近い売り上げと推計される。

 そしてCS放送全体での売り上げは、フジ・メディア・ホールディングスが公表した14年度の決算資料を見ると、137億3900万円とある。高い売り上げだが1コンテンツのF1に数十億を投入することはあり得ないだろう。そこで注目すべきがBSフジからの費用補填となる。BSフジの14年度決算資料を見ると、売り上げは152億2500万円とある。CS放送とBSフジを合わせた売り上げは289億6400万円に膨らむ。そして14年度のフジ・メディア・ホールディングス全体の売り上げは6433億1300万円、経常利益が351億200万円とあり、これならばF1放送の継続も可能なのではないかと思うところだ。

 事実、これまではCS放送、BSフジ、そして年に数回放送した地上波番組それぞれから予算を集める形でやりくりしていたと思われる。しかし、近年フジテレビでは制作費削減等が言われていて、高額の放映権料に加えて、全戦に独自スタッフを雇った中継費用等、五輪並みに金食い虫であるF1放送を守ることが厳しかったことは、異例の単年契約を、ここ10年近く毎年のように結ぶしかなかった状況からも読み取れる。

広告収入が見込めるのはごくわずか

 じつは日本のテレビ局にとって、スポーツコンテンツのほとんどが赤字事業であることはあまり知られていない。一方、2月8日(日本時間)にカロライナ・パンサーズ対デンバー・ブロンコスの戦いが行われた、NFLのスーパーボウルなどは世界一CM料金が高いことで知られていて、今年の放映権を持つCBS会長のレスリー・ムーンブスは、第50回となる今回は30秒のスポットCM枠を500万ドル(約6億円)の価格で販売し、世界の超優良企業たちに対して即ソールドアウトだったことを明かしている。例えばトヨタは、新型プリウスを紹介するためスーパーボウルのCM90秒枠を購入したことを明らかにしている。

 また、英国のスカイスポーツは、英国のプレミアリーグ(サッカー)と3年契約で51億3600万ポンド(約8725億円)の契約を締結した。こうした景気の良い話が世界中を席巻していたので、誰もがスポーツ放送は儲かるものだと感じているのかもしれない。しかし、サッカー日本代表戦の視聴率は良いがJリーグの視聴率が高くない例を挙げるまでもなく、注目を集め、広告収入が集められるスポーツコンテンツはごくわずかだ。

 これはあくまでも例え話だが、フジテレビがF1放映権を年間50億円で契約していたとする(※50億円は計算を簡単にするための仮定価格です)。15年のレース数は20戦。1レースあたりの放映コストは2億5000万円に中継費用等が加算される。番組の枠を押さえ、CMを売っていくとなると、CS放送の収入を無視すれば、放送だけで黒字にするには、少なくとも1レースあたり3億〜4億円以上で売りたいところだ。しかし、スポンサー企業からすれば、BS放送に高額のCM料金はあり得ない。一方のテレビ局からすると、放送できる時間帯やCM枠数を考えると、地上波で視聴率も10%以上狙えるような番組のCM価格になってしまうだろう。

2016年、日本のファンは一安心

 スポーツ専門チャンネルのESPNやスカイスポーツのように、有料放送が当たり前のケーブルテレビや衛星放送がベースの企業はまだいいが、日本の民放のようにCMを販売して無料放送をするテレビ局にとっては、高騰を続けるスポーツコンテンツ放映権料は頭痛の種となってしまっている。

 フジテレビ以外のとあるテレビ局での話だが、たまたまバラエティ番組でF1の映像を資料として使おうとしたら、その金額が五輪映像より高くて使えなかったと言われた。その金額を聞くと、一般的な国内スポーツでの資料映像と比較すると数十倍から100倍以上の価格差だった。世界的なスポーツコンテンツのインフレに対して、日本の放送業界は追いつけていない状況なのだ。

 さて、話を最初に戻すと、今回の放映権獲得は長年F1中継を継続してきたフジテレビの粘り腰が勝ったのかもしれない。実際、FOXスポーツが既に数名の日本人解説者と接触していたという話は関係者の間では知られていて、さらにフジテレビ以外のテレビ局にもF1コンテンツの売り込みがあった模様だ。ただ、どこもF1の高額な放映権料に二の足を踏んだ。さらにFOXスポーツはBS放送やCS放送にチャンネルこそ持っているが、F1を全戦全セッション中継放送するとなると、番組の編成がかなり難しくなる。FOXスポーツにしても、独自に日本でのF1中継をスタートするには、準備不足であることは否めない。そうした数々の要因から、フジテレビの経験がF1放映権獲得につながったと言える。果たして、フジテレビはFOMと契約していた金額より安く契約できたのか、はたまた高く買わされたのかは知るよしもないが、まずは日本のF1ファンが無事今年も全戦全セッションをテレビ観戦できるようになったことを喜びたい。

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