米国と日本、大きく異なる部活のあり方 選手育成で日本が今、考えるべきこと

永塚和志

“米国式”育成法のメリット

日米それぞれのシステムにメリットはある 【Getty Images】

 しかし純粋に良いアスリートを生み出すという視点からすれば、米国のこういったシステムには利点が多い。

 まず複数競技をこなすことで選手たちにとってはいわばクロストレーニングとなり、本来持っている身体能力をより生かすことができるようになったり、精神面でも異なる競技を交互に行うことでモチベーションを維持しやすく、いわゆる“燃え尽き症候群”になりにくい、などといった効果があるようだ。

 新潟県にある開志国際高校は生徒に複数の部活動を推奨しているという、日本では珍しい学校だ。アスリートとしての能力を伸ばす効力に加え、学業と複数の部活動をこなすことで自然とタイムマネジメント力が向上するなど、学校生活全般で好影響が出始めているという。

 また地域クラブでの活動もできる“米国式”だと、まだ育成段階にある中高生選手たちは異なるチームメートや異なるコーチングを受ける機会を得られるという点でも、アスリートとしての成長を促しやすいと言える。日本の場合は基本1つの所属チーム(つまり学校の部活動)でプレーし続け、しかも学閥などに代表される縦割り社会であるために横のつながりがなく、なかなか米国のように異なる環境でのプレー機会を得にくいという状況がある。

 筆者の知人にバスケットボール関連の仕事をしている日本在住の米国人がいる。彼には日本人の妻との間に息子がおり、その息子が中学校に上がるにあたって「絶対に部活動のバスケットボール部に入れさせたくない。そのバスケットボール部のコーチが正しい知識を持っているかも分からないし、もし彼が正しいコーチングを知らない人物の場合、うちの息子のバスケットボールキャリアを駄目にしてしまいかねないからね」と話していたのを思い出す。

 だが、日本の部活動にも良い所がないわけではない。通年で1つの競技をしつつ、「先輩・後輩」の関係性やチームの和を尊ぶ精神などから忍耐強さや規律というものを学ぶことができる。学校スポーツといえど個人がより強調される米国とは対照的だ(米国の中でもAAUなどのクラブ活動では輪をかけてそういった傾向が強くなり、やはり批判の対象となっている)。そういった規律や忍耐強さが大人になって、例えばトップレベルでプレーした場合などに生きてくることもあるだろう。

2020年に向けて日本が学ぶべきこと

2020年を前に、日本が考えるべきことは多い 【写真は共同】

 このように日米間の学校スポーツが随分と違う環境で行われていることが、お分かりいただけただろうか。

 日本は2020年の東京五輪・パラリンピックとその先へ向けて新たに若いアスリートの育成や発掘に力を注ぎつつあるが、少子化が進む日本でそれは容易ではない。現行の試みを見ていると国や競技団体等が才ある者を選抜して、そこに注力している形だ。しかし、それは真の形でのスポーツのあり方だろうか。シーズン制を敷き、かつより多くのプレースタイルやコーチングを経験することができる米国のようなシステムの方が、より自然な形で有能がアスリートが出てくるのではないか。

 そうした点を考えても、日本が考えるべき点、学ぶべき点は大いにあるだろう。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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