JFAの新プログラム「JYD」とは? みんなで日本のサッカーを強くするために
選手育成の層を厚くする効果
アンバサダーの北澤豪さん(右)と大儀見優季選手(1. FFCフランクフルト/ドイツ)。北澤さんは、プログラムによって期待できる3つの効果「選手育成の層が厚くなること」「競争力の向上」「サッカーの知識、理解の浸透」を挙げる 【スポーツナビ】
「僕なんかは元々、エリートじゃない。選抜もトレセンとも無縁だった。だから、今の年代別代表とか地域選抜の対象になっていない、その下の層にも可能性を持った選手がたくさんいるぞということを言いたい。クラブチームでトップ3に入らない4、5番手の子は本当に意欲的。吸収力があって、ちょっとしたきっかけで大きく伸びる。このプログラムは幅を持っているし、数少ない選手に限らないアプローチができるようになるんじゃないかと思う。下の層のレベルが上がれば、上の層との入れ替えが始まって、トップレベルの選手に競争力が生まれる」
代表に選ばれた選手を育てるのではなく、選ばれる候補選手の数を増やしていくための長期スパンの視点だ。より多くの指導者を育て、より多くの地域から、より多くの優秀な選手を輩出するために何ができるのか。現状では、このプログラムによって育成面への働き掛けをどのように行っていくかという具体的なサポートは、まだ決まっていない。しかし、年代別代表を直接的に強化するものではなく、競争の土台を分厚くするという考え方を持ち、この考えを各トレセンや、競技会で横のつながりを持って共有していくことに、まず、プログラムを立ち上げた意図がある。つまり「みんなで日本のサッカーを強くする」意識の共有だ。
競技を長く続けていくための環境作り
プログラムによって、サッカー、フットサル、ビーチサッカーなど、互いの交流が促進されることが期待される 【スポーツナビ】
「フットサルの大会に関しては、多くの選手を抱えている高校のチームに『試合に出ていない選手をフットサルの大会に出してくれ』と言っている。中には、フットサルで自信をつけて、チームでも評価が上がったという例もある。僕自身も同じで、フットサルの世界選手権に出場してから(※1989年、所属していた本田技研が国内の8人制大会で優勝し、代表チームとして参加した際にメンバーとして選出された)、所属チームでも試合に出られるようになった。
そういう刺激もあるから、サッカーはサッカー、フットサルはフットサルとくくらない方がいいと思う。そうすれば、フットサル全体の人口が増えるし、フットサルクラブの育成組織の選手は、サッカー出身の選手に負けていられなくなってレベルも上がる。ブラジル代表のネイマールみたいに、フットサルをやっていた選手がサッカーで活躍すると、そういう道を知ることもできる」
JFAが定義するサッカーファミリーには、フットサルやビーチサッカーに関わる人々も含まれている。これまでは、それぞれが種目別に普及や強化を考えてきたが、今回のプログラムによって、互いの交流が促進されることが期待される。選手にとっては、他の種目を横目に見ること、大会が点在することで、種目転向を含めて競技生活を続ける要因にもなり得る。
近年では、人数の異なる5人制サッカーの競技会や、大学のサークル日本一決定戦など、多種多様な大会が行われるようにもなっており、高校卒業と同時に本格的な活動を終えた選手が、それぞれの新たな道を歩みながらも継続的にプレーするきっかけが増えている。
JFAの斎藤氏は「これは、まだアイデア段階の話ですけれど、例えば国内のシニア大会を勝ったチームが、日本を代表してシニアの世界大会に出られるとしたら、シニア層のモチベーションは大きく上がるでしょう。生涯スポーツとして、いつまでも憧れを提供できれば、みんながサッカーを続けることにつながるのではないかと思います」とプロにはならなかった、なれなかった選手たちが選手活動を何かの形で続ける動機付けになることへの期待を示した。
北澤さん「アクションを起こすことが大事」
プログラムはまだ手探りの状態だが、北澤さんは「まず、アクションを起こすことが大事」と語る 【スポーツナビ】
「僕は60歳くらいのシニアの大会なんかも観にいくことがあるんだけど、先輩たちはみんなうまいし、楽しそうなんだ。年齢が進むにつれて競技人口が減るのは、ある程度仕方がない。でも、一度完全にやめてしまうと、次に始めるのは難しくなる。だから、少しずつでも継続的にやった方がいい。それに、60歳までサッカーを続けている人たちは、本当にサッカーのことをよく考えているから、会うと『いまの日本のサッカーは、何をやっているんだ』とよく怒られるんだ(笑)。何歳でも、どんなレベルでも、サッカーの話をできるということが大事だよね」
現在の中高生がシニアの年齢になる時代は、2050年よりもっと先の話になる。このプログラムはまだ始まったばかりであり、随分と先を見据えたものと言える。各大会のサポートについても詳細が決まっていない段階で、理念や大枠の考え方は分かるものの、具体的な動きは見えにくいという状況だ。
JFAマーケティング部の林鉄朗氏は「今後は、パートナー企業様からも多くのご要望が上がってくると思います。今回、スポンサードいただいた4社は、いずれも自社の製品・サービスを通じてスポーツ・サッカーの環境を良くしたいというエネルギーを強く持たれています。大会サポートを通じた研究開発や共同製品の開発、サッカーファミリーへの啓蒙活動など、さまざまな支援の提案もあると思います。例えば、ニチバンさんによるけがの予防をテーマにしたテーピング講習や明治さんによる食育講習が、大会会場やウェブを通じてサッカーファミリーに広く継続的行われるといったことも、プログラムを通じて実現していければと考えています」と、今後の施策についての見通しを話した。
少しずつ動いていくものが、将来につながっていくのかどうか。まだ手探りの状態だ。しかし、北澤さんは「まず、アクションを起こすことが大事。2050年に向けてといっても、そんなに悠長にしていられない。細かい作業から、認識を変えていかないといけない。分かりやすく、何かが急激に変わる話じゃない。でも何かを変えることで、みんなの視線が変わっていくことが大事」と熱っぽく語った。
年明けから少しずつ生まれていく変化が2050年のサッカーファミリー拡充、日本代表の強化につながるかどうかは、プログラムの推進とともにサッカーファンの意識や視線が変わるかどうかに懸かっていると言えるだろう。