苦しみもがく名門・国見の現在地 “小嶺イズム”から新たなる伝統へ

ひぐらしひなつ

新体制によるチームの再構築

小嶺栄二の指導はアカデミックで理論的。メニューの目的をボードに記してスタッフと選手全員で共有しながらトレーニングに臨んでいる 【ひぐらしひなつ】

 かくもあがき続けた“サッカーのまち”だが、ようやく昨年から方向が定まりつつある。堀川の同期OBで、日体大で指導を学んだ小嶺栄二を専任監督として招聘(しょうへい)。同じく日体大卒のGKコーチとも契約し、指導陣の強化を図った。

 小嶺栄二の指導はアカデミックで理論的だ。それぞれのメニューの目的をボードに記してスタッフと選手全員で共有する。状況判断力を養うトレーニングで途切れずにプレーに関わり続けることを意識付け、エリアごとの守備方法や体の向きも含めたパスコースの作り方など、具体的で細やかなアプローチを短時間で集中的に行う。

 ハードなトレーニングの代名詞だった“狸山往復”をはじめとする素走りは、大幅に減らした。よりサッカーの局面に沿うスプリントや切り返しで走力を養い、さらに、動き出すタイミングやポジショニングの要素を加味してプレーの質を高めていく。紅白戦では、距離感よく少ないタッチでパスをつなぎながらアグレッシブにゴールに迫る場面が何度も見られた。個の力量に優る戦力を確保しづらいなか、組織力で相手を上回る狙いが見て取れる。一方で、パスサッカーを志向するチームがしばしば陥りがちな脆弱さは感じられず、キックの力強さが印象に残る。

 OB仲間が指導のサポートに訪れるほか、近隣の若き指導者間での情報交換や勉強会も積極的に行っている。「うまいチーム」が「強いチーム」に敗れることも多いサッカーの世界で、勝利至上に偏らない育成指導への探究心がどのような指導法を編み出し、成果を結ぶかが楽しみなところだ。

 選手集めは内田を中心とするOBたちの人脈が頼りだが、春には新入部員が増え、新たに寮を借りる準備も進んでいる。以前は校庭や公共施設を転々としていた練習場も、県立公園の人工芝グラウンドを恒常的に使わせてもらえるようになった。

新たなブランディングの創出へ

過去のプライドを捨て、新たな国見ブランドを育てていくことができるか 【ひぐらしひなつ】

 地元在住の“小嶺チルドレン”が育成指導に携わり、彼らの子供たちもまたボールを蹴るようになった現在、周囲の人々の意識も徐々に変化しつつある。

「結局あれは“国見のサッカー”ではなく“小嶺先生のサッカー”だった。オリジナルを超えることはできない」
「余計なプライドは脱ぎ捨てて、自分たちの手で、また新たに国見ブランドを育てたい」

 ジュニア、中学、高校、社会人、レディースと、あらゆるカテゴリーに「国見」の名がつくチームがある。飲食店のテレビでサッカー中継が流れていれば、客も店員も手を止めて見入ってしまう。サッカーのこととなれば何時間でも立ち話をして疲れない。そんな“サッカーを愛し過ぎる人たち”の思いが交錯しつつ、みんな「国見を強くしたい」という思いはひとつだ。

 青と黄のストライプのユニホームに身を包んだ丸刈り頭のチームが、“生まれ変わった国見のサッカー”で全国のファンを沸かせる日が、遠からず訪れる。強豪であり続けることの難しさをかみしめながら、多くの人々の力をつなぎ、名門の火が消えることはない。

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著者プロフィール

大分県中津市出身、サッカーライター。福岡と東京で広告代理店制作部勤務を経た後、フリーランスに。2007年より大分トリニータの番記者となり、オフィシャル誌「Winning Goal」などに執筆。12年からサッカー専門新聞「EL GOLAZO」大分担当。九州各地の育成年代も取材するかたわら、町クラブの広報誌制作などにも携わる。15年からは大分トリニータオフィシャルモバイルサイト「TRINITA MOBILE」(http://mpcb.oita-trinita.co.jp)でレビューやコラムなどを担当。著書『大分から世界へ〜大分トリニータ・ユースの挑戦』(2012年、出版芸術社刊)他。

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