浅田真央は再び“進化”できるのか GPファイナル最下位から得た手応えと課題

長谷川仁美

失速のワケは「気持ちの部分」

フリー滑走の当日から患っていたという胃腸炎。演技への影響はあったのだろうか 【坂本清】

 翌日のフリー『蝶々夫人』では、名前をコールされてから音楽のスタートまで、30秒をほぼ全部使って気持ちを整えてポジションに立ったが、トリプルアクセルでステップアウトし、フリップが2回転になるなど、ジャンプミスが目立ってしまった。125.19点。フリー6位、総合6位の結果となった。

「目指す演技にはまったく遠いと思います。気持ちの部分でなかなか難しいです。本番になると空回りして。心と体と技術が3つそろわないといけないけれど、今の私にはすべて足りないと思います」。目指してきた「自分が表現したいもの」を見せることはできなかった。「失敗したくない気持ちが強すぎるから、空回りしているんだと感じます。集中力もまだまだ。気持ちの部分以外には、特に(問題は)ないです」
 ジャンプミスが気持ちに影響し、それが次のジャンプに波及してしまったのだろう。SPでは得られたある種の手応えが、フリーでは感じられなかった。

 実は、フリー当日の数時間前から体調を崩していたという。浅田はそれをフリー不調の理由に挙げなかったが、その後、胃腸炎と診断された症状により、翌日のエキシビションを欠席した。

失敗から進化する 浅田真央の戦い方

復帰1年目での世界選手権出場を目指す 【坂本清】

 今年初め、現役復帰の気持ちを伝えに行った時、佐藤信夫コーチに「そんなに簡単なことではない」と諭された。浅田自身、現役復帰が楽な道ではないと理解しており、「思っていた以上に1戦目(ジャパンオープン)と2戦目(中国杯)が良かったので、『このままとんとん拍子でいくのかな、ちょっと待ってよ』という思いがあった」という。3戦目のNHK杯でジャンプミスが続いたことには、どこか納得する部分もあった。
 とはいえ、ミスはミス。試合で失敗をして、課題を見つけ、また新たな気持ちで次の演技に臨んでいく。これまでも浅田は、そうやって戦ってきた。

 バンクーバー五輪後の2シーズンほど、そしてソチ五輪の約2週間、つらい時期に気持ちが揺らぎながらも、真っすぐスケートに向き合い続け、いつしか、そこを抜けて進化した姿を必ず見せてきた。今の浅田も、「自分がどうなっていきたいのかは分からないけど、自分が目指すものをとことんやっていくことが自分のやりたいことなんじゃないかな」と、スケートへ真摯(しんし)に向き合う姿勢は変わらない。

 次の試合は、12月25日に開幕する全日本選手権(北海道・真駒内セキスイハイムアイスアリーナ)。この大会の後、シーズン後半の世界選手権などへ向けた日本代表選手が決まる。そのため浅田は、「演技構成の変更も考えないといけない」としているが、一番の課題は、確かな気持ちを持って試合に臨むことだ。「日々の練習が自信につながる」と本人が語るように、これからも毎日スケートと向き合って、1日1日を積み上げていく。そうやって一歩一歩前進した道の先に、心と体と技術の3つがそろった演技があるはずだから。その時期は、約2週間後の全日本選手権なのかもしれないし、もっと先かもしれない。いつかはまだ見えないが、たどり着くそのときに向けて、浅田はまたいつものように、真摯にスケートに向き合いつづける。

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著者プロフィール

静岡市生まれ。大学卒業後、NHKディレクター、編集プロダクションのコピーライターを経て、ライターに。2002年からフィギュアスケートの取材を始める。フィギュアスケート観戦は、伊藤みどりさんのフリーの演技に感激した1992年アルベールビル五輪から。男女シングルだけでなくペアやアイスダンスも国内外選手問わず広く取材。国内の小さな大会観戦もかなり好き。自分でもスケートを、と何度かトライしては挫折を繰り返している。『フィギュアスケートLife』などに寄稿。

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