視覚障がい柔道のホープが見据える先 石橋元気、リオ・東京へ続く柔の道

荒木美晴/MA SPORTS

階級変更した全日本で準優勝

 それから半年後の11月22日、石橋は再び講道館の畳の上にいた。今年の全日本視覚障害者柔道大会に出場するためだ。減量に成功し、エントリーは73kg級。直前の計量では71.4kgと、かなり身体を絞って臨んだ。この階級を連覇しているロンドンパラリンピック代表の高橋秀克が不在であったが、石橋は予選リーグを全勝で勝ちあがり、決勝トーナメントに進出した。

(映像提供:MA SPORTS)

 準決勝では、柳川雅是に大外刈りで一本勝ち。続く決勝では、20歳の永井崇匡と対戦した。最初に試合を動かしたのは石橋。序盤に大内刈りで有効を奪った。ところが、ポイントをリードしてからが攻めきれず、「中途半端に動いてしまった」ところで永井の内股がさく裂し、一本負けを喫した。「あんなにきれいに決められてしまって、悔しい」と石橋。試合後は井上氏から、「甘い!」と喝を入れられ、「勝ちたいという貪欲さが足りなかった。まずメンタル面を見直さなければ」と反省し、唇をかんだ。

「悪いことばかりじゃなかった」

石橋にとって2016年は柔道に加え、就職活動や国家試験の受験と多忙を極めそうだ 【吉村もと/MA SPORTS】

 体重が減っていることもあり、さらに66kg級への変更も視野に入れているという。だが、「絶対王者の高橋選手ともまだ対戦したことがないし、何より今日負けたように自分の柔道ができていないので現状維持で頑張りたい」と話し、顔を上げた。

 パラリンピックイヤーの来年は、柔道に加えて、就職活動や国家試験の受験準備が本格化し、多忙な日々を迎えることになりそうだ。もちろん柔の道を極めるつもりだが、彼にとって、資格を取得することは人生設計においてとても重要なこと。石橋も「柔道に集中したいからこそ、きちんと就職をする」が持論で、見据えているのは2020年の東京パラリンピック出場だ。

 とはいえ、今年の全日本は来春開催予定のリオの選考大会の前哨戦。その重要な大会で準優勝とはいえ結果を残した。つまり、自分にはリオで日の丸をつけるチャンスがあるということも理解しているし、一方で学業との両立は中途半端な気持ちでは難しいということも、肝に銘じている。「もどかしい」と一言つぶやく石橋だが、インタビューの最後にはこんなコメントを残してくれた。

「高校時代は柔道で良い成績をおさめたわけじゃなかった僕が、病気のおかげで視覚障がい者柔道に出会えた。これまで“目が良くなればいいのに”とずっと思っていたけれど、悪いことばかりじゃなかったなって最近思うんです。(この世界で)1位になりたいですね」

 リオあるいは東京に向けて、若き柔道家は自分の納得いく道を探し、歩んでいく。

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著者プロフィール

1998年の長野パラリンピック観戦を機に、パラスポーツの取材を開始。より多くの人に魅力を伝えるべく、国内外の大会に足を運び、スポーツ雑誌やWebサイトに寄稿している。パラリンピックはシドニー大会から東京大会まで、夏季・冬季をあわせて11大会を取材。パラスポーツの報道を専門に行う一般社団法人MA SPORTSの代表を務める。

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