リオ五輪に挑むサクラセブンズの可能性 「女子の7人制は世界に最も近い」

斉藤健仁

レスリングの練習でタックルを強化

1人目が低く入り、2人目が上半身を抑えるダブルタックルも効果を発揮した 【斉藤健仁】

 その後は、粘り強いディフェンスで相手の攻撃を止めて、得点を許さなかった。今大会、グラウンドに入るとウォームアップ代わりに味方同士でタックルを繰り返していたように、課題だった低いタックルで相手を仕留めるシーンが目立った。また2人目のボールに対する働きかけの意識も高く、ターンオーバーからのトライも量産した。「スキルはまだまだですが、(今大会は)タックルは良かったと思います。1人目が低いタックルをして、2人目が寄るということをやっていきました」(浅見HC)

 実はサクラセブンズにはパンフレットに載っていないコーチが5人おり、アタックやセットプレーのコーチ以外にも、ディフェンス面は、4月から組織ディフェンスを担当する稲田仁コーチと、レスリング出身でストレングス&コンディショニングも担当する岩崎裕介タックルコーチの下、鍛えてきた。「1日5分でもレスリングの練習を入れてくれと言われていました。レスリングの練習をしない日はなかった」(岩崎コーチ) タックルを課題に挙げられて、個別にトレーニングを重ねてきた小出も「その成果が出たと思います!」と笑顔を見せた。

年間200日の合宿で強い体を作る

エース・山口のスピードはリオ五輪でも貴重な武器になりそうだ 【斉藤健仁】

 7人制ラグビーがリオデジャネイロ五輪の正式競技になったのは2009年のこと。2010年のアジア大会はカザフスタン代表、香港代表に負けて5位に終わり、アジアの壁も高く、当時は五輪出場も難しいのでは……と思っていた。2013年のセブンズワールドカップでも予選プール戦で全敗するものの、少しずつ強化を進め、昨年5月には砂浜でのトレーニングを含めた、ボールを使わない1週間の合宿も敢行。2014年のアジア大会の決勝は中国代表に負けはしたものの、力を付けていることを証明した。

 現在、サクラセブンズは年間200日程度の合宿、遠征を重ねて強化を進めている。選手によっては、ウェイトトレーニングや、しっかりとした食事摂取などにより、この4年間で「7〜8キロほど体重が増えた」(浅見HC)選手もいるという。「強い体が強い心を作る。(相手より)勝ちたい気持ちが強かったことには自信があります」と浅見HCが言えば、「世界の舞台でたくさん負けを経験してきて、それがあったからこそのメンタル面の成長だったと思います」と中村主将は胸を張った。

「世界一テンポの速いラグビー」でメダルに挑む

中村主将は「まだまだここがスタートライン」と語った 【斉藤健仁】

 中村主将は「苦しい4年間でしたが、この一瞬のためにすべてをかけてきて、全部報われたような気がします」と振り返った。だが、サクラセブンズの目標は「五輪で金メダル」だ。五輪まで残り9カ月、バスケットボールから転向して5年目を迎えている中村主将は「まだまだここがスタートラインだと思って頑張ります」と言うように、今度はさらなる高みに向かって再出発する。

 サクラセブンズは、今年度から世界を転戦するワールドシリーズにも昇格、来年8月の五輪前に世界の舞台で戦うことが可能で、さらなる成長も期待できる。「私たちの強みは最後のカザフスタン代表戦でも見せた粘り強さ、ひたむきさというところです。ラグビーのうまさではなくて、見ている方に少しでも頑張っているなと思ってもらえるようなプレーを大切にしたい。年明けからもう一回走ります!」(浅見HC) 

「女子の7人制代表が世界に最も近い」と日本代表の岩渕健輔ゼネラルマネージャーが言うように、この4〜5年の急成長は目を見張る。サクラセブンズは世界と対等に戦うことができるフィジカルとスピードを身につけつつ、持ち味である「世界一テンポの速いラグビー」に磨きをかけて、リオデジャネイロでメダルに挑む。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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