海外遠征に危険が……そのとき母は? 夢を追うアスリート母子の複雑な心境

高樹ミナ

海外遠征では時に危険と隣り合わせ

 世界を転戦する選手たちは、時に危険に巻き込まれることもある。
 ATPテニス世界ランキング8位に入り、今年も英国・ロンドンで開かれたワールドツアーファイナルズ(11月15〜23日)に出場した錦織圭(日清食品)もその一人だろう。フランスで起きた同時多発テロ事件を受け、英国が大会期間中にシリア空爆への参加を表明。大会の開催に直接影響はなかったものの、選手や関係者は心中穏やかではなかったはずだ。

世界で活躍する上で、母親からの献身的なサポートは大きな力になる。錦織(左)と石川も母への感謝を口にする 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 予期せぬ出来事が起こり得る海外の遠征先で、選手の無事を願う家族もまた当事者である。とりわけ幼いころから陰で選手をサポートしてきた母親は、離れていてもわが子と二人三脚。錦織は英国から帰国直後の25日、都内某所で開かれた2016年リオデジャネイロ五輪公式スポンサー「P&G」のキャンペーン発表会に姿を見せ、「お母さんと離れて過ごす時間が多かったけど、(テニス留学先の)米国に来てご飯を作ってくれたり掃除をしてくれたり。今でも遠征先で料理や他の面でもサポートしてくれて、とてもありがたい」と照れくさそうに語り、厳しい試合の続く遠征先で孤独を感じた時も、「自分のことを一番分かって応援してくれるのは母親(父親も)」と感謝の気持ちを口にした。

母子が二人三脚で世界を目指す

 会見に同席した卓球の石川佳純(全農)も、母親の強力なサポートを受けて育った選手の一人である。国際試合における彼女の原動力はずばり、母の握るおにぎり。「お母さんが遠征先に炊飯器を持ってきて、おにぎりを作ってくれるんです」とうれしそうに話し、試合会場では母親の応援の声が聞こえると心強いとも語った。

 石川は卓球を始めた小学1年生から全寮制の中学校に入るまで、元卓球選手で指導者でもある母・久美さんの厳しい指導を受けてきた。さらに実家を離れてからも母のアドバイスは石川の競技人生を支えた。

 卓球という競技は母親や父親がコーチとなって幼いわが子の指導にあたるケースが多く、元祖“天才卓球少女”の福原愛(ANA)、そして石川、最近では弱冠15歳でリオ五輪日本代表入り内定の伊藤美誠(スターツ)も3歳になる前から母と二人三脚で競技にまい進してきた。「母への感謝」をうたうP&GのキャンペーンCMも共に頑張ってきた母子が五輪出場の夢をかなえ、世界のひのき舞台で活躍する子と、それを見届けた母が喜びを分かち合う光景が感動的に描かれている。五輪をめざす母子にはリアルに映るだろう。

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著者プロフィール

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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