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海外遠征に危険が……そのとき母は?
夢を追うアスリート母子の複雑な心境

パリ同時多発テロで苦渋の決断

パリの同時多発テロの影響は、“みう・みま”で知られる平野(左)と伊藤にも降りかかった
パリの同時多発テロの影響は、“みう・みま”で知られる平野(左)と伊藤にも降りかかった【Getty Images】

 フランスで起きた同時多発テロ事件は複数の競技大会に影響を与えた。フィギュアスケートやテコンドーの国際試合が相次いで中止となったほか、11月29日に開幕する卓球世界ジュニア選手権大会(フランス・ヴァンデ)も一時開催が危ぶまれたが、「テロに屈しない」という主催者側の強い意向で決行。しかし、日本選手団の派遣は日本卓球協会の判断によって中止された。同協会が示した派遣中止の理由は3つ。


(1)参加者の安全を第一に考えるべきである

(2)フランスでは3カ月間の非常事態宣言が発令されている

(3)この時期のフランス渡航について大きな不安を感じる選手とその家族がいる


 この苦渋の決断に至るまで、協会の中で慎重な議論と検討が重ねられたことは言うまでもない。試合に出たい選手の気持ち、チャンスを与えたいコーチ陣の思い、本来はITTF(世界卓球連盟)や各国のNF(国内競技連盟)と足並みをそろえたい日本の立場もあっただろう。特に今回のメンバーには初代表に選ばれた選手や、高校3年生でこれがジュニア最後の国際大会という選手がいた。


 だが無視できないのは選手に危険が及ぶリスクと、わが子の身を案じる家族の心配。とりわけジュニアは高校3年生以下の未成年が対象とあって、選手の親たちは協会の決定を固唾(かたず)を呑んで待った。その中には現地へ応援に行く準備を整えていた伊藤美誠の母と、同じく15歳で伊藤のダブルのペアでありライバルでもある平野美宇(JOCエリートアカデミー)の母もいた。

子を思う複雑な思い「命あっての夢」

 日本選手団の派遣中止が決まった直後、二人の母親はこう心境を明かしている。「できるものなら出場させてあげたかったが、親として不安だったことも事実」と話すのは平野の母・真理子さん。彼女もまた娘が3歳のときから指導にあたり、二人三脚で競技を続けてきた。今は親元を離れ、東京・北区のNTC(ナショナルトレーニングセンター)で寮生活をしている娘の心中を察し、「派遣中止の決断にはとても感謝し安どしていますが、わが子はどう感じているだろう? さぞ落胆しているだろうと心配でもありました」とも言うが、娘から届いたメールには「初めは絶対に出たいと思っていたけど、テロのニュースが後を絶たないので、だんだん怖くなって出場をためらっていた。派遣中止の発表を聞いてとても残念で悔しいけど、ホッとした気持ちもある」と書かれていたそうだ。「命あっての夢、命あっての卓球」という母の言葉はずしりと重い。

伊藤の母・美乃りさん(左)は、世界ジュニアへの日本選手団派遣見送りを前向きに捉えている
伊藤の母・美乃りさん(左)は、世界ジュニアへの日本選手団派遣見送りを前向きに捉えている【写真は共同】

 一方、大阪の親元で競技生活を送る伊藤の母・美乃りさんは、昨年の同大会で日本が団体とダブルスで準優勝したことを振り返り、「今年は団体・ダブルス・シングルスで優勝するのだと、とても張り切っていました。安全が保証されるのならフランスへ行きたいと本人は言っていました」と娘の様子に触れ、「今回の派遣中止は仕方のないことだと思います。ただ、今、フランスで起きている事件を遠い国の出来事で終わらせたくない。テロによって大勢の人が犠牲になっていること、誰が悪いという問題ではないことなどを親として、大人として、子どもにきちんと説明してあげることに心を砕きました」と話している。伊藤の身近で心身のケアに努める彼女らしい観点だ。さらにスポーツイベントに危険が及ばない平和な社会を考える機会にもなったと、伊藤の母は今回のことを前向きに捉えている。


 スポーツ界に見る母親の献身的なサポート。それは選手が最高の状態で試合に臨むためにある。試合に出るわが子の身を案じるようなネガティブな要素に向けられては断じてならないのだ。

高樹ミナ
高樹ミナ

スポーツライター。千葉県出身。 アナウンサーからライターに転身。競馬、F1、プロ野球を経て、00年シドニー、04年アテネ、08年北京、10年バンクーバー冬季、16年リオ大会を取材。「16年東京五輪・パラリンピック招致委員会」在籍の経験も生かし、五輪・パラリンピックの意義と魅力を伝える。五輪競技は主に卓球、パラ競技は車いすテニス、陸上(主に義足種目)、トライアスロン等をカバー。執筆活動のほかTV、ラジオ、講演、シンポジウム等にも出演する。最新刊『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)監修他。

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