この“大出世”に、昨年６月から手綱を取り続けてきた主戦・蛯名も大きな笑顔。相棒の急成長ぶりを次のように語っている。

「デビュー当初は乗っていなかったので分からないところもあるけど、４００キロそこそこの馬体で、飼い葉も食べなくて使い減りもするし、強い稽古もできなかった馬。それを牧場と厩舎スタッフが大事に使い、成長を促しながら走らせてきたことが、ここで実を結びましたね」

　この日の馬体重も４３０キロ。デビュー当初から１０キロ程度しか増えていないのだが、「もとが小さい馬ですからね、この数字でも以前と比べると中身が詰まっている」と蛯名。また、同時に精神面の成長も大きく、「落ち着いているし、思うように操縦できる馬になっている」と、心身ともに文字通り“馬肥ゆる充実の秋”を迎えているようだ。

　だからこそ、レースも強気の競馬で勝負できたのだろう。

「今日の占いを見たら『地道に行きなさい』とあったんです。その通りに行こうとゲートを出たなりの位置で行ったら、あのポジションになりました。まあ、占い通りですね（笑）」

　そうおどけてみせた蛯名だが、そこは百戦錬磨の名手だ。勝負所の３コーナー下りから４コーナー、直線入り口と「後続が強力だから、待っていても負けてしまう。だから自分から仕掛けていきました」と、ライバルより一歩先んじるスパートで一気に先頭へ。そのままヌーヴォレコルトらの末脚を封じ込めた勝利は、決して占いのおかげではなく、蛯名の卓越した読みと技術があってこそだろう。

　一躍、牝馬戦線のトップに躍り出たことで当然、年末の有馬記念（１２月２７日、中山競馬場２５００メートル芝）への参戦も期待されるマリアライト。ただ、久保田調教師は「いろいろな可能性を考えながらローテーションを決めていきたい」としているように、次走は現時点では未定だ。そもそも、前述したようにレース数を多く使えるタイプではないだけに、蛯名も今後への期待は「とにかく順調に」と強調する。

　その一方で「なによりまだ馬が若いですからね。レース数も使っていない馬ですから、これからもっと良くなりますよ」とジョッキーが期待を込めているように、今のマリアライトには伸びしろしかない、といった状況だろう。そして、そもそも血統表を見れば、１つ上の兄にＧIジャパンダートダービー馬のクリソライト、１つ下の弟にＧI菊花賞３着のリアファル、叔父にＧIジャパンカップダート馬のアロンダイトがいるという筋の通った良血馬だ。「成功の石」という馬名の意味にあるように、これからマリアライトはいくつの成功を収めていくのだろうか。

　同じ牝馬では３歳二冠ミッキークイーン、宝塚記念３着＆天皇賞・秋４着のショウナンパンドラがまだ控えているし、もちろん牡馬との対決もある。また、今日敗れた馬たちもこのまま負けっぱなしではいられないだろう。ウオッカ、ダイワスカーレット、ブエナビスタ、ジェンティルドンナと続いてきた突出した１頭による“牝馬の時代”からは少し様相が変わってきたかもしれないが、マリアライトの登場でますます激戦化してきた牝馬戦線。この中から誰が真の最強牝馬に君臨するのか――まさに百花繚乱、これもまた新たな“牝馬の時代”である。

（取材・文：森永淳洋／スポーツナビ）