スケートリンクを運営する難しさとは 日本フィギュアを陰で支える人々の願い

スポーツナビ

共通する老朽化という問題

 各々が健全な運営に向けて知恵を振り絞る一方、他のスケートリンクとの情報交換も定期的に行われており、担当者が悩みやアドバイスを共有するようにしているようだ。

「主に話されているのは運営面の改善ですね。どのようなことを行えば集客が図れるかとか。あとは施設によっては専属のインストラクターでプロのコーチがいますので、彼らとどういう形で連携すれば、より緊密に事業を展開できるのかという情報を交換するような形をとっています」(南部)

南部(写真)ら運営担当者は、他のスケートリンクとも定期的に情報交換を行っているという 【スポーツナビ】

 全国のスケートリンクが抱える共通の問題点は、施設の老朽化だという。氷を張るという特殊な性質がゆえに維持することが難しく、新規で設立されるリンクは少ない。現存する施設の多くは築20年以上が経過している。そうした中でもちろん集客も図らなければならず、財政的にもリニューアルしたくてもできないジレンマがそこにはある。

「公共施設の場合だと、昨今は地方自治体が財政難という事情があります。そうすると財源をどうしても圧縮せざるを得ない。圧縮したら当然それぞれの財源が減ります。それにより行政から入るお金が減り、施設自体の財政面が厳しくなっているというのが現状です」(南部)

 神奈川スケートリンクはここ5年ほど安定した経営を続けており、近年は黒字となっている。しかし、体育協会という公益財団法人が運営しているということで、他とは違う難しさがあると南部は語る。

「うちは純然たる公共施設ではないのですが、私たち体育協会が公の法人という位置づけでもありますので、公的な性質が非常に高く求められます。われわれ法人の設立趣旨は『スポーツの普及・振興』。横浜市民370万人の健康と幸福をスポーツでバックアップする法人なので、裾野の拡大を視野に入れながら、得られた収益については民間企業とは異なり、社会資本に対して再投資をしなければならない。社会資本というのはハード面の整備であったり、あるいは地域スポーツの普及・振興のための財源に充てたり、得られた収益をすべて市民の方に還元していく形をとっていくことになります。それが民間施設との違いです」

リニューアル後の願い

今年12月下旬のリニューアルオープンに向け、現在は工事を進めている。この地から新たなスターが誕生することを、南部は願っていた(写真は2014年12月撮影) 【写真提供:神奈川スケートリンク】

 羽生や浅田といったスター選手の存在もあり、スケートをやりたいという子どもたちは増えてきている。神奈川スケートリンクが行っている教室にも申し込みが絶えないそうだが、現在のところ土曜日と日曜日は中断しているという。仮設リンクということもあり、内部は35メートル×25メートルと狭く、安全管理上やはり限界があるからだ。それでもリニューアル後は、国際規格である60メートル×30メートルと拡張されることから、より多くの利用者が見込めることだろう。

 南部はリニューアルにあたり、こんな希望を抱いている。

「アイススケートに特化する形でフィギュアやホッケー、カーリングといったさまざまな競技がありますので、こうしたスポーツの普及・振興をまず第一に考えていますが、その延長線上には選手の強化があります。そしていずれは国際大会の第一線で活躍できるような選手がこのスケートリンクから羽ばたき、活躍してもらいたいですね。これは私たちの願いでもあります。市民リンクからでもトップ選手が育つ。そうなれば私たちや市民の方々も誇りに思う施設になるでしょうし、そういう施設にしていきたいと思っています」

 市民リンクという性質上、すべての人々に公平公正でなければならず、それゆえトップ選手の強化という点においては不向きなのかもしれない。しかし、選手たちのほとんどが幼いころに初めてスケート靴を履いたのは、それぞれの地域にあったリンクであるはず。そういう意味でも市民リンクが果たす役割は大きい。フィギュアにかかわらず日本のスケート競技全般は、こうしたリンクを運営する人々によっても支えられているのだ。

<文中敬称略>

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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