通例を覆し、完璧に準備した工藤監督=鷹詞〜たかことば〜

田尻耕太郎

短期決戦前に「調整」ではなく「練習」

工藤監督の下、ソフトバンクはCS、日本シリーズを前に連日6時間にも及ぶ練習を行った 【写真は共同】

 基本的には「練習はウソをつかない」という考え方だ。

 短期決戦のCSファイナル、そして日本シリーズの直前には、選手全員の前で「勇気をもって戦ってほしい」と話している。大舞台で緊張しない選手はいない。そこで普段の力が発揮できるか、それが課題と言っていた。

 だから、完璧な準備をする。

 日本シリーズの前も、あれは調整ではなく練習だった。

 CSファイナルでも千葉ロッテをまるで寄せ付けず全勝で勝ち抜いた。日本シリーズまでの準備期間はちょうど1週間。最初の2日間は休養に充てられたが、練習が再開すると連日の紅白戦だ。ただの試合形式ではなく、走者を置いた場面を想定するケース打撃の要素を取り入れたため、6イニングの紅白戦でもかなりの時間を要する。

 午前11時に始まった練習が終わるのは午後5時頃。連日、約6時間である。

 取材する側もしんどい。ある記者が、「ようやくバッティング練習かー」とつぶやいた。それを聞き逃さなかった工藤監督は「ん、悪い?」。時折見せる、ちょっと冗談めかしたような表情だ。ドラフトのくじ引きの際に見せたような感じといえば分かってもらえるだろうか。だが、目はまったく笑っていない。一瞬その場が凍りついた。

 CSファイナルの前も、通例となっている宮崎フェニックスリーグへの参戦ではなく、同様の練習を本拠地ヤフオクドームで連日のように行った。
 ペナントレースで90勝も挙げたチームが、さらにレベルアップを図ったのだ。

この秋を待っていた指揮官

 強い――。

 CSファイナルと日本シリーズの、ポストシーズンの戦いを見ながら、この言葉を何度口にしただろうか。

 これも通例だが、長いシーズンを戦い終えたチームには、1週間ほど休養期間が設けられることが多い。日本シリーズまでどこよりも長く戦ったとなれば、蓄積した疲労もその分だけ大きくなるはずだ。

「それってどの球団もそうなの?」

 10月初め頃だったか、工藤監督は複数球団を取材した経験のある新聞記者にそうたずねていた。
 ソフトバンクの1軍選手は、来週水曜日の11月4日には、すでに若手中心で始まっている宮崎の秋季キャンプに合流する。一部選手は免除されたが、シリーズ優秀選手賞に輝いた明石健志(29歳)やベテランの領域にさしかかっている高谷裕亮(33歳)もメンバーに入っている。

 ペナントとポストシーズンで97勝も挙げたソフトバンクは、2016年さらに強く――。

 工藤監督はこの秋がくるのを、うずうずしながら待っていたらしい。

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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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