コリンズ監督がたどり着いた新境地 メッツをWSに導いた老将の手腕とは

杉浦大介

「私自身が変わった部分は確かにある」

コリンズ監督はライト(左)らベテラン選手の意見にも耳を傾ける柔軟さを身につけ、信頼を勝ち取っていった 【Getty Images】

 ただ……メッツでも最初の4年はすべて負け越しだったが、今季は選手、フロントを失望させることはなかった。チーム内に扱いの難しいベテランが少なかったのは事実だが、理由はそれだけではあるまい。年齢を重ねる中で、老将は過去の失敗から学ぶ柔軟さを身につけていったのである。

「(かつては)自身の判断に自信を持っていて、うまくいかないと自分に腹を立ててしまった。感情を制御できなくて、選手たちは私が彼らに対して怒っているのだと勘違いしてしまった。おかげで円滑にいかなかったんだ」

「過去数年はこれまで以上に選手との対話の時間を持つように努めてきた。このチームに来たばかりのとき、心がけたのは毎日すべての選手たちと会話の時間を持つこと。私自身が変わった部分は確かにあるのだろうね」

 以前は自身がすべて統括していた服装、音楽などの規則も、今では選手たちの意見を聞き入れるようになった。デービッド・ライトのようなベテランの言葉に耳を傾け、その姿勢で信頼を勝ち得ていった。
 メディア対応も情熱的かつ柔軟で、顔なじみの記者は名前を呼んで話をする。日本メディアにも協力的で、日本人野手のメジャーでの可能性、ローテーション6人制などについて、筆者も興味深いコメントを頂戴したことがある。

最後(?)の大舞台、ワールドシリーズに臨む

 もちろん今季のメッツの成功をすべてコリンズに結びつけるつもりはない。躍進は若手の成長とフロントの的確な補強があればこそ。何より、強力な先発投手陣こそがチーム最大の武器だった。ただ、それと同時に、コリンズの指揮官としての成長がメッツの助けになったことも事実だろう。

「テリーは選手をやる気にさせるのがうまいんだ」

 ライトのそんな言葉通り、タレント不足ゆえに低迷した過去数年も、コリンズ体制下の選手たちは少なくとも常にハードにプレーしていた。勝つために必要なのは、才能、情熱、リーダーシップ、そして運。迎えた15年、それらがうまく融合されたことで、メッツはついに飛翔したのである。

 ワールドシリーズは10月27日(日本時間28日)に開幕する。これまで地元でもヤンキースの陰に隠れてきた“ニューヨークのもう1つのチーム”は、1986年以来の世界一奪取に挑む。多くのニュースターを擁する躍進チームの指揮官として、コリンズの名も全国区になるに違いない。

「私ももう歳だから切迫感は感じている。ここでやり遂げなかったら、あとどれだけチャンスがあるかは分からない。だから今回は大舞台なんだ」

 自分をジョークのネタにすることも厭わないコリンズだが、そんな言葉はあながち冗談とは思えない。依然として名将と認められたわけではないし、自身も近未来の勇退を視野に入れているとの報道もある。

 紆余曲折を経験し、ついにたどり着いた最初で最後かもしれない夢舞台――。注目すべきは選手だけではない。60歳を超えて対話力に磨きをかけた老将が、ワールドシリーズでみせる手綱さばきからも目が離せない。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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