ブラジルに現れた新たな“ジョイア” ネイマール以上と評される特別な18歳

沢田啓明

初得点から5日間で4得点

6月のU−20W杯にも出場し、ブラジル代表として準優勝に貢献した 【Getty Images Sport】

 デビュー戦以後、ガブリエルは常にベンチ入りし、ほとんどの試合で後半途中から出場した。

 それから約2週間後の試合で、“事件”が起きた。後半に入っても監督が“ジョイア”を投入しないことに怒ったサポーターが、パルメイラス・ベンチのすぐ後ろで、「すぐにガブリエルを入れろ!」と大声で連呼する。一見、温厚そうだが実は短気なオリヴェイラ監督がスタンドを振り返り、「うるさい! 静かにしろ!」と一喝。サポーターが言い返して、口論になったのである。

 試合後、オリヴェイラ監督は「みんな、ガブリエル、ガブリエルってうるさいんだよ。まるでビートルズ・マニアのように叫ぶんだから……」と苦笑していた。

 その後、U−20ブラジル代表に招集され、6月にニュージーランドで行われたU−20ワールドカップ(W杯)に出場し、準優勝に貢献する。

 6月末に帰国すると、7月15日のコパ・ド・ブラジルのASA戦(1−0)で右からのクロスをニアサイドで直接合わせて待望の初得点。さらに、8月26日のコパ・ド・ブラジルのクルゼイロ戦(3−2)では左からのクロスを右足ジャンプボレーでたたき込み、さらに左サイドから右斜め前へ約40メートル走ってロングパスを引き出すと、GKをかわして左足で流し込みこの日2点目を挙げた。その4日後のブラジル全国リーグ・ジョインヴィレ戦(3−2)でも2得点を挙げ、わずか5日間で4得点を挙げた。また、9月16日のフルミネンセ戦(4−1)では敵陣の深い位置でセンターバックからボールを強奪し、至近距離からゴールを決めている。

歴代スターの長所をすべて備える

 パルメイラスの攻撃陣は、2列目が右からドゥドゥ(控えがラファエル・マルケス=元大宮アルディージャ)、ロビーニョ、ガブリエル・ジェズスで、パラグアイ代表CFルーカス・バリオスの1トップ。全国リーグ27試合終了時点で48得点はリーグ最多だが、失点がやや多く、順位は20チーム中4位。首位コリンチャンスに勝ち点13差をつけられている。残り11試合で、逆転優勝は厳しい状況だが、4位以内に入れば来年のコパ・リベルタドーレス出場権を獲得する。また、コパ・ド・ブラジルでは準々決勝に勝ち上がっており、タイトルを狙える状況にある。

 6月までチームを指揮していたオリヴェイラ監督は、「ガブリエルが飛び抜けた才能の持ち主であることは、疑いがない。彼のさらなる成長を手助けするのが私の重要な仕事であり、そのことがチームの総合力を飛躍的に押し上げるはず」と語っていた。

 デビューしてからまだ6カ月で、当然、課題もある。試合によって好不調の波があるし、同じ試合の中でもプレーに参加できていない時間帯もある。また、きゃしゃな体つきだけに、DFに激しく当たられると分が悪い。これらは今後、試合経験を積みながら、そして練習を積み重ねながら克服していくしかないだろう。

 ドリブルのうまさはネイマールを、独創的なアイデアはロナウジーニョをほうふつとさせる。また、ストライカーとしての抜け目なさは、ロナウドやロマリオを思い出させる。今後の成長次第では、これらのスーパースターの長所をすべて備えた選手になれるかもしれない。来年のリオデジャネイロ五輪代表に選ばれる可能性もあり、その先にはブラジル代表入り、欧州ビッグクラブ移籍、という輝かしい未来が見えてくる。

 ブラジルが生んだ最後の“ジョイア”ネイマールがデビューしてから6年余り、欧州へ飛び立ってからは約2年が経つ。パルメイラスのサポーターは、自分たちがネイマール以上の宝石を手に入れたと確信しており、彼のことを決して「ネイマール2世」とは呼ばない。「18年W杯でネイマールとコンビを組み、ネイマールの影が薄くなるほどの活躍をしてくれるはず」と胸躍らせている。

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著者プロフィール

1955年山口県生まれ。上智大学外国語学部仏語学科卒。3年間の会社勤めの後、サハラ砂漠の天然ガス・パイプライン敷設現場で仏語通訳に従事。その資金で1986年W杯メキシコ大会を現地観戦し、人生観が変わる。「日々、フットボールを呼吸し、咀嚼したい」と考え、同年末、ブラジル・サンパウロへ。フットボール・ジャーナリストとして日本の専門誌、新聞などへ寄稿。著書に「マラカナンの悲劇」(新潮社)、「情熱のブラジルサッカー」(平凡社新書)などがある。

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