“ポスト錦織”はいかに育てるべきか 米国では大学進学も有効な一手に

坂井利彰

多様性こそ育成の可能性を広げる武器

 こうした取り組みを見習い、慶應義塾大でも賞金総額5万ドルのチャレンジャー大会、「慶應チャレンジャー」を07年から行っています。錦織選手のように世界のトップ5に入るような“特別な才能”を持った選手たちは大学を経由せず世界に飛び出していく道もありますが、日本でも大学経由の選手が出てくれば、選手層が厚くなり、トップ100、トップ50を現実的な目標に捉える選手が数多く出てくるはずです。そうなったときには、2年前に悲願のワールドグループ復帰がかなった国別対抗戦・デビスカップで、日本代表が優勝を目指すことも夢ではなくなります。

 米国は大学テニスの見直しが始まり、30歳前後のアンダーソン、イズナーらが成果を挙げ始めています。一方、フランスやオーストラリアは、国を挙げた協会主体の強化を進めています。特にオーストラリアはニック・キルギオス、タナシ・コキナキスの20歳前後のニュージェネレーションが、オーストラリア国立スポーツ研究所(AIS)のバックアップを受けて台頭しています。マレー以降の才能が出てこないイギリスも、協会がジュニア育成に潤沢な資金を投入して盛んに強化をしています。

国を挙げて強化に取り組むオーストラリアからは、ニック・キルギオス(写真)ら才能ある若手が台頭 【写真:ロイター/アフロ】

 もはやテニス選手の育成に“正解の一本道”はあり得ません。どの取り組みも一朝一夕にはいかないものですが、多様なキャリアパスウェイを探り、選手ごとに自らの成長曲線を描けるようにしていくことが、結果として錦織選手に続く才能を生む土壌、日本のテニス文化を育んでいくことにつながるのだと思います。

(構成・大塚一樹)

書籍紹介『松岡修造さんと考えてみた テニスへの本気』(PR)

【東邦出版】

 近年、錦織圭選手の大活躍によって、大きな夢を持ってテニスに取り組む子ども、若手選手、その保護者が増えている。しかし、その道は険しく、実力だけで成せるものではない。「自分はダメなんだ」と燃え尽きて、テニスそのものをやめてしまわないためには「方法論」を知る必要がある。それを、慶應義塾大学庭球部総監督でNHKのテニス解説者の坂井利彰氏が松岡修造さんと一緒に考え、説いたのが本書。世界を経験した二人の対談には“リアル”な情報が満載! テニス界はもちろん、他競技の選手育成・指導にも通ずる内容になっている。

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著者プロフィール

慶應義塾大学専任講師。1974年生まれ、慶應義塾大学法学部卒業、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科後期博士課程修了。高校時代はU18日本代表、高校日本代表に選出。大学時代は全日本学生シングルス優勝、ユニバーシアード日本代表、ナショナルチームメンバーに選出。プロ転向後は世界ツアーを転戦し、全豪オープンシングルス出場。世界ランキング最高468位、日本ランキング最高7位(ともにシングルス)。引退後は慶應義塾大学庭球部監督に就任。ATP(世界男子プロテニス協会)公認プロフェッショナルコース修了、ATP公認プロフェッショナルコーチ、日本テニス協会公認S級エリートコーチ、日本プロテニス協会理事を務める

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