発見の多いブラインドサッカーの奥深さ 「松原渓のスポーツ百景」

松原渓

日本のパラリンピック初出場は叶わず

一体感のあるスタンド 【松原渓】

 日本は07年の北京大会予選は4位で涙をのみ、11年のロンドン大会予選は引き分け以上で出場権を獲得できるところまでいったものの、残り15分でまさかの2失点。その悔しい思いをバネに、4年間の厳しいトレーニングと強豪との親善試合などの経験を重ねて強化を図ってきた。そして、昨年の世界選手権では過去最高の6位になるなど、その強化は着実に実を結び始めている。そして、今大会は「過去最強のブラサカ日本代表」と大きな期待を背負って臨んだ。

 初戦の相手は、アジア4連覇中の王者・中国。ブラインドサッカーでは両足の内側を使ったドリブルが特徴だが、中国はどの選手もドリブルがうまくて速い。切り返しやターンなどの個人技も日本より一枚上手で、昨年の世界選手権時よりパワーアップしていた印象だった。

 その中国に、持ち味の堅い守備を存分に発揮した日本だったけれど、一瞬の隙を突かれて失点。反撃を仕掛けるも最後まで1点が遠く、0−1で惜しくも敗戦。第2戦の相手はイラン。中国に次ぐ強豪国で、体格が一回り以上も大きい。日本はこの試合も堅い守備でゴールに鍵をかけたものの、ゴールは奪えず0−0のスコアレスドロー。強豪との2連戦を1分1敗で乗り切った日本は、その後の3試合で3連勝(対韓国◯2−0/対インド◯5−0/対マレーシア◯2−0)と快進撃を見せた。

 しかし、5日目のマレーシア戦の前に、2位のイランが韓国に4−0で勝ち、リオデジャネイロパラリンピック大会の出場権を得られる2位以内が確定したため、日本のパラリンピック初出場は叶わず……。最終日の3位決定戦は、韓国と対戦し、3人制によるPK戦の末に敗れて日本の最終順位は4位。6試合で9得点1失点という素晴らしい成績を収めながら、目標とする場所にはあと一歩及ばなかった。
 中国対イランの決勝戦は、前後半0−0からの延長戦でも決着がつかず、PK戦の末にイランがアジア選手権初優勝を果たした。最終順位は以下の通り。

優勝:イラン
準優勝:中国
3位:韓国
4位:日本
5位:マレーシア
6位:インド

 最大の目標であるパラリンピック出場がかなわなかったのは残念だった。けれど、ヨーロッパでの親善試合を増やし、日本の武器である組織力を高めてきたその方向性は、ピッチに確かな跡を残していた。これからの5年間で日本がどれだけ進化するのかは楽しみでもある。そして、ぜひ、2020年に東京で行われるパラリンピックではメダルを目指してほしい(開催国のため予選は免除)。

ブラインドサッカーを取り巻く環境の変化

 大会中は多くのメディアが特集やニュースでブラインドサッカーの魅力を伝え、一部の試合が生中継されたり、地上波でのゴールデンタイムのCMもあり、世界選手権当時に比べても全体的にメディアの露出は多かった。その結果、6日間の合計来場者数は6,491人にもなったという(スタンドの収容人数は約1,900人)。

 また、印象的だったのは、今大会の公式サイトが非常に見やすく、一目で今大会の意義やブラサカ日本代表の足跡が分かるようになっていたこと。ブラインドサッカー協会のウェブサイトも、競技の特徴やルールや観戦マナーが分かりやすく掲載されており、ブラインドサッカーに携わる人たちによる、競技の認知度を上げていくための努力が感じられる。

左:「プレー中はお静かに」のメッセージ/右:サポーターからのメッセージ 【松原渓】

 その努力に応えるような、サポーターの応援も印象に残った。音を出してはいけないと分かっていても、良いプレーや惜しいシュートがあると、つい声が出そうになってしまう瞬間が何度もある。そんな時、スタンドではサポーターの応援をリードするコールリーダーと呼ばれる若い男性が試合前やハーフタイム中に「みなさん、大きな声で応援したい気持ちはよく分かります、でもここはぐっと我慢して、心の中で叫びましょう!」と呼び掛けたり、「プレー中はお静かに」のメッセージを掲示していたりと、応援をうまくリードしてくれた。最初はどんな風に応援をすれば良いのかと惑う人もいたけれど、いざ試合が始まると、スタンドに見事な一体感が生まれていた。スマートな大会運営の陰には、300人を越すボランティアスタッフのサポートがあったそうだ。

日本代表サポーター「ちょんまげ隊」の隊長“ツンさん”こと角田寛和氏(左)の姿も! 【松原渓】

 スタンドは視覚、聴覚障害者や車いすの人にも配慮されて専用席が設けられており、手話通訳者も常駐していた。会場内にはブラインドサッカーの体験コーナーも設けられて誰でもその「感覚」を体験できる工夫もされていた。

「大会を盛り上げ、競技の魅力を伝える」開催国の責務は十分に果たされていたと思う。競技が強くなることと、認知されていくことは常に相乗効果の関係にある。その点、ブラインドサッカーを取り巻く環境の変化は、他のさまざまな競技にも参考になりそうだ。

 5年後に向けて再び新たなスタートラインに立つ“ブラサカ日本代表”に、引き続き注目していきたい。

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著者プロフィール

サッカー番組のアシスタントMCを経て、現在はBSフジにて『INAC TV』オフィシャルキャスターを務める。2008年より、スポーツライターとしての活動もスタート。日テレ・ベレーザの下部組織であるメニーナのセレクションを受けたことがある。『キャプテン翼』の原作者である高橋陽一先生が監督を務める女子芸能人フットサルチーム「南葛シューターズ」にて現在もプレー。父親の影響で、幼少時から登山、クロスカントリー、サイクリングなど、アウトドア体験が豊富。「Yahoo!ニュース個人」(http://bylines.news.yahoo.co.jp/matsubarakei/)でも連載中

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