福島千里、裏目に出た記録への欲求 日本新の期待は200mへ

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一つ一つが生み出した今季の強さ

好調を維持していた福島は、万全の準備で世界選手権に臨んだ 【写真は共同】

 そもそも今季の福島は、本人も関係者も「いつ記録が出てもおかしくない」と語るほど、好調を維持していた。実際、6月のアジア選手権では、参考記録ながら11秒23をマークし優勝。7月のスペイン・マドリードでは、11秒25の好記録をたたき出している。

 シーズン前にけがをしなかったこと、そのおかげで充実したトレーニングが積めたこと、日本選手権前に今大会の参加標準記録を突破し心のゆとりができたこと……。戦前、福島が挙げていた好調の要因はいくつもある。「すべてができたら結果がこれ。『これだけしていればいい』というものはない」と、どれか一つの要因が突出しているわけではない。この日まで取り組んできた一つ一つが、強さの原動力となって、ここまで来ていた。

 しかし、自己ベストだけはどうしても届かなかった。記録を狙って準備してきたというのに、いざレースに臨むと欲が出て体が硬くなってしまう。その度に福島は「(記録更新は)今じゃないんだな、今日じゃないんだな」と、努めて冷静に受け止めていた。今年最大の目標であった世界選手権も、“今ではなかった”のだろう。ほぼ完璧だった予選から一転、順決勝はスタート直後、「もう少し(出力を)上げられる」と思った瞬間、またしても力みが出てしまった。

200メートルに残されたチャンス

着順で予選を突破し、準決勝の舞台に立ったことは大きな収穫といえる 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

 世界の一流選手は、予選、準決勝、決勝と順々にタイムを上げていく。最終決戦に最大ピークに持っていくためだ。しかし、福島はそれができなかった。長年日本が抱えている大きな課題が、再び露呈した形だ。しかしながら、着順で予選を突破し、2011年テグ大会ぶりに準決勝の舞台に立ったことは、大きな収穫でもある。

 結果がすべてのスポーツに「たられば」は存在しない。ただ、予選の福島が、向かい風0.5メートルの悪条件の中、日本記録に肉薄したことを考えると、準決勝では条件次第で日本新の可能性が十分にあったはずだった。

 風向きは悪くない。残る200メートルにも自らが持つ日本記録(22秒89)更新のチャンスはある。100メートル敗退後も瞳に宿っていた闘志は、次のレースへの意気込みを伝えていた。

「200(メートル)に向けてこれで終わりではないので、この結果をしっかり200につなげられたらなと思います。その日は(予選のみの)1本しかないので、思いっきりいきたいです」

 200メートル予選が行われるのは26日夜。自分越えを目指す福島の夏は、まだ終わってはいない。

(取材・文:小野寺彩乃/スポーツナビ)

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