日本シンクロ復活も楽観視できない理由 強敵に勝つために、個の表現力の向上を

田坂友暁

ライバル・ウクライナが日本に勝るもの

芸術性や表現力が高いウクライナはリオデジャネイロ五輪でも日本のライバルとなるだろう 【写真:ロイター/アフロ】

 古豪復活、と言っても過言ではない結果となり、来年行われるリオデジャネイロ五輪の出場枠を獲得さえすれば、メダルへの期待も当然膨らむ。その期待の裏付けとは反対に、楽観視できないという事実も、今大会の結果から見てとれる。

 楽観視できない理由は、ここ数年で力をつけてきたウクライナの実力だ。高い身長や長い手脚を利用し、伸びやかにさまざまなな表情を表現する脚技を持つウクライナは、芸術性や表現力といった部分の評価が高い。

 今大会のデュエットのフリールーティンで日本を下して3位に入ったことが、それをよく表している。チームよりデュエット、デュエットよりソロのほうが、上位に入るためには個人が持つ表現力の強さが必要になる。特に芸術性を評価するフリールーティンにおいて、ソロとデュエットの2つで日本を上回ったウクライナは、高い表現力を持ち、それを生かした芸術性の高い演技構成ができる実力を持っている証拠である。

 一方で、技術的な評価が得点の多くを占めるテクニカルルーティンのデュエットとチーム、そしてチームのフリールーティンではウクライナを上回った日本。この結果は、技術的にはウクライナよりも勝っており、さらに大人数で演技をした時の同調性の高さがあることを示している。

 加えて、フリーコンビネーションという、ひとつの舞台のような自由な演技構成ができる種目で銅メダルを獲得したことは、日本にとって非常に大きな意味を持つ。フリーコンビネーションの順位は、芸術性の高い演技と美しく見える技ができているかが評価を左右する。この種目での順位がウクライナよりも上だったことは、日本のほうがチームという集団になった時にウクライナよりも高い表現力を持っている、と判断された証拠にほかならない。

今後も続くライバル関係

8年の時を経て、日本はようやく新たな一歩を踏み出した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 日本の同調性と技の正確さ、ウクライナの表現力の高さと芸術性。お互いに自分たちが持たないものを持ち合っており、今後もしばらくはライバル関係が続くことだろう。実際に、勝っても負けてもすべての種目で1点以下の差しかなかった。日本が本当の意味で銅メダル争いを制し、さらに上の銀メダル、金メダルを目指せるようになるためには、ウクライナが持っているものを日本が身につけていくことがポイントになる。

 残された課題は多い。しかし本物のアスリートになりつつある今の日本チームの選手たちの目は、大会が終わっても常に先を見据えている。それは井村ヘッドコーチが定めたフィニッシュラインでもある。8年の時を経てメダルを手にして世界と戦うためのスタートラインに立った日本チームは、ようやく新たな一歩を踏み出したのである。

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著者プロフィール

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのエディター・ライターとして活動を開始。水泳の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで水泳を中心に取材・執筆を行っている。

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