田中の上質な投球が決断させた114球 前向きな言葉に感じる“大黒柱”の期待
波瀾万丈の数カ月間
降板時にもファンの大声援が送られた。前半戦最後の先発は、後半戦に期待を感じる内容となった 【写真は共同】
時を同じくして、ヤンキースも連勝と連敗を繰り返す波の大きなシーズンの真っ只中にいる。決して芳しくなかった前評判を思えば、3ゲーム差でア・リーグ東地区首位という現在位置は喜ぶべきなのだろう。
一気に抜け出しそうな強豪が他に見当たらないだけに、このまま地区優勝の可能性は十分ある。ただ、そんなチームの中で不安材料と言えるのが、6月を終えた時点で平均防御率でリーグ13位(4.43)、合計被安打数はリーグ最多(493本)、被打率でワースト2位(2割7分6厘)という先発投手陣だった。
過去8戦では先発投手がすべて3失点以内と向上気配だが、今後さらに激しさを増すであろうペナントレースの中で、やはり“大黒柱”と呼べる頼りがいのあるエースが必要になる。それになり得るのは、現在チーム最多勝タイのマイケル・ピネダか、トレード期限までに実績ある投手を獲得するか、それとも田中が巻き返してくるか……?
“エースらしい”と呼べる前半戦ラスト登板
しかし、6回3失点に抑えた7月3日のレイズ戦、そして今回のアスレチックス戦での投球は今後に期待を持たせるものだった。
“大黒柱”と呼ばれる投手は、状況に応じてステップアップし、長いイニングを稼ぐことで、自分が投げる以外のゲームにまで好影響を及ぼすものである。そういった意味で、速球系はまだやや少なめでも、特にアスレチックス戦の田中の働きは“エースらしい”と呼んでそん色ないものだったように思える。
もちろん、8回以降まで投げたのはまだ1試合のみ。これが続くかは分からないし、縁起でもない話だが、シーズン最多の球数を16球も更新した影響が今後に出ないとも限らない。ただ、常に自分を客観的に見る冷静さを持ち合わせている田中の、アスレチックス戦後のコメントは力強いものだった。
「8回は球が甘くなっていた。そこは課題としてはあります。でも、久しぶりにあれだけの球数を投げることができたので、それはプラスとして捉えている。次に同じようなシチュエーションで(マウンドに)上がったときに、もっと良くなると自分では思っています」
2年連続のプレーオフ逸を経て迎えた2015年は、ヤンキースにとって実に興味深いシーズンになりそうな予感が漂い始めている。
そして、本人の言葉通り、メジャー2年目の田中にさらに伸びしろがあるのだとすれば、今後の展開が余計に楽しみになる。少なくとも、今季前半戦最後の先発機会が、その前向きな言葉に説得力を感じさせるほど上質だったことは紛れもない事実だった。